宮崎県のインバウンドが盛り上がりつつある。昨年の秋には、宿泊予約サイトでの伸び率は全国県別2位と躍進。神話の里というブランディングが実りつつあり、高千穂神楽でその魅力を伝えている。
ポイント:
・宮崎県の情報発信等の後押しで高千穂を訪れる外国人客が増加している
・夜の観光、早朝の観光も網羅することで、宿泊需要を伸ばす
■秋の宮崎県人気を押し上げる高千穂の雲海見学
2017年の秋の宮崎県の伸び率は驚くべきものだった。「楽天トラベル」が発表した同サービスにおける2017年9月15日~10月15日の予約人泊数(=予約人数×泊数)のうち、外国語サイト経由で予約があった県別の伸び率は、対前年同期比で宮崎県が約3.1倍であり、約3.3倍の千葉県に次いで高い伸び率であった。
通年における同社の同様な調査では、宮崎県はランク外となっていて、秋だけ瞬間的に宮崎県が盛り上がったことになる。
なぜ、秋の宮崎県が人気になったのだろうか。
一つは、2017年が中国の国慶節・中秋節に伴う10月初旬の大型連休が例年より長い8連休で、中国からの予約が対前年同期比で約2.1倍と好調だったことから、中国からの個人旅行者の流入が考えられる。九州全般で中国からの個人旅行者が拡大しているからだ。
楽天によると、宮崎県の中で「高千穂・延岡・日向・高鍋」エリアが最も大きく伸びたという。
高千穂峡、雲海の名所の国見ヶ丘、日本の神々ゆかりの「天岩戸神社」や「天安河原」といった観光名所が数多く存在し、その認知度があがったことが影響していると同社の担当者は言う。
また、同県の高千穂観光協会のインバウンド担当者に伺うと、「国見ヶ丘の雲海の見頃シーズンだからではないか」と人気の理由を語った。
標高513mの国見ヶ丘は、東に五ヶ瀬川に沿って広がる高千穂盆地、西に阿蘇外輪山や涅槃像に例えられる五岳、北に標高1757mの祖母山をはじめとする連峰を一望できる絶景スポットである。
この時期、快晴無風で冷え込んだ日の早朝には、高千穂盆地や周辺の山々を霧が覆い隠して幻想的な世界を演出する雲海が見られる。
やがて雲海が明けてくると、そこには棚田が一面に広がる独特な景観を目の当たりにできる。
同協会の担当者によると、外国人観光客による宿泊需要も向上しているという。従来は、熊本や大分方面等からバスツアーの通過点として訪れる観光客が多かった。高千穂峡をボートで巡りすぐに他の町への移動となるパターンだ。
しかし早朝にしか見られない国見ヶ丘の雲海が有名になってからは、近隣に泊まる必然性がでて、町内の30軒の宿の稼働率が上がっている。
■夜楽しめるエンターテインメントで、宿泊需要を伸ばす!
また、最近では、神話の里という認識が外国人にも持たれるようになった。あらかじめ調べて来る人もいると同協会の担当者は言う。天岩戸、天安河原、くしふるの峰など神話の舞台と伝えられる地と神々を祀る神社を訪ねる外国人もいるそうだ。そこで、神話に欠かせない神楽の重要性が大きくなったと言う。
本来、高千穂に伝承される夜神楽は、年に一度(集落ごとに開催日が異なる)、氏神様を招いて、夜通しで演じるもので、天照大神が天岩戸にお隠れになった折、岩戸の前で、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が舞ったのが始まりと伝えられ、国の重要無形民俗文化財に指定されている。
一方、365日楽しめる観光客向けの観光神楽は三十三番まである神楽の中から代表的な4番「手力雄(たぢからお)の舞」「鈿女(うずめ)の舞」「戸取(ととり)の舞」「御神体(ごしんたい)の舞」を抜粋し、高千穂神社境内の神楽殿で毎晩20時より1時間上演している。
各集落の神楽の舞手が交代で奉納する本格的な舞が外国人客からも人気で、英語、中国語(簡体字)、韓国語、日本語の多言語パンフレットを作成し、神楽の始まる前に配っている。
また、高千穂には神楽のほかにも夜を彩るエンターテインメントがある。それは、「神都高千穂 神あかり」という催しで、最新のLED照明を用いて、日本の滝百選に選ばれている真名井の滝を照らすというものだ。昼間とは違った幻想的な世界が広がる。ライトアップは日没から22時までで、LED照明が青、黄色、紫、ピンクなどに色が移り変わり、来場者を楽しませる。当初は夏のみの企画だったが、好評により昨年から通年となっている。
高千穂では、夜や早朝に楽しめることが多く、宿泊にもつながっているのだろう。
■宮崎県は神話をテーマにしたブランド戦略を進める
宮崎県庁やみやざき観光コンベンション協会による神話によるプロモーションも後押ししていることも重要だ。
宮崎県は、古事記や日本書紀に描かれた日本発祥にまつわる日向神話の舞台であり、多くの神話や伝承、それらにちなんだ伝統文化やゆかりの地が県内に数多く残されている。日本有数の古墳群やその出土品、地域に受け継がれている神楽やまつりなど、宮崎県だけが持つこれらの素材を「神話の源流~はじまりの物語」として、神話のストーリーに沿って組み上げるとともに、観光誘客に繋げる取組を展開している。
特に、インバウンド向けには、日向神話の内容を説明したパンフレット「Roots of Japan」の英語版や、日向神話の神々の恋の物語にちなんだスポットを巡るルートを紹介する「宮崎恋旅 キャンペーンブック」の繁体字版を製作するなどして、高千穂をはじめとする県内各地の神話にゆかりのある観光スポットのPRを行っている。
高千穂観光協会では、来年(2019年)のラグビーワールドカップに向けて、神話の里としての個性を打ち出しながら旅行会社等へ働きかけをしたいという。九州では、福岡県、大分県、熊本県で開催されるが、高千穂は近くを素通りされてしまうので、何とか宿泊につなげたいそうだ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/