日本国内で注目される豪華寝台列車のパイオニア・JR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」。2013年10月の運行から3年たっても定員の20倍を超える予約が殺到している中、2016年度の外国人利用者は約500人と、全体の20%に達する見込みだという。内外から人気を博するその列車には、「地域との連携」によって生じる魅力が詰まっている。

うきは駅でのおもてなしに近隣から人々が集まり、盛り上がっている
うきは駅でのおもてなしに近隣から人々が集まり、盛り上がっている

ポイント

・「九州の宝」を満載にした列車で世界へ九州の魅力を発信
・地域の人々によるおもてなしが乗客の感動を呼ぶ
・運行ルートでない地域でも、「ななつ星」とセットにした旅行商品を販売

■九州の魅力を世界に発信する「クルーズトレインななつ星in九州」

今、日本はちょっとした豪華寝台列車ブームである。
2017年にはJR東日本の「TRAIN SUITE四季島」、JR西日本「トワイライトエクスプレス瑞風」と日本の美しさを堪能する豪華寝台列車が発進する。
その先駆けとなったのは、2013年10月に運行を開始したJR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」だ。

「将来的には日本人5割、海外のお客さま5割にしたい。海外で知名度が圧倒的に低い“九州”を盛り上げる起爆剤として、この列車を知ってほしい。たとえ、乗車する機会がなくても『あの列車が走っているのが九州。九州に行ってみたい』というように、憧れを喚起し、知名度アップにつながるといいと思う。」
運行前の2012年5月のプレス発表の場で、JR九州の唐池恒二社長(当時/現会長)は、世界最高峰の列車の旅を提案し、世界から集客する意欲を語った。

その言葉のとおり、3年を経た今でも、定員の20倍を超える予約が殺到し、抽選による参加受付けが続いている。
その中で2014年度から受付けている外国人利用の販売は、2016年12月の出発分までで、29の国・地域からの参加があり、累計で1,070名と全参加者7,969名の約13%を占めている。2014年夏以降、香港やタイ、台湾などアジア各地や英国、北米などの旅行会社計11社と提携し、「ななつ星」を売り込んでいる。
2016年12月には、世界の富裕層を対象にしたILTM(インターナショナルラグジュアリートラベルマーケット)カンヌにもJR東日本、JR西日本の豪華寝台列車とともに出展。日本の美しさを体現する列車の旅をPRした。

「ななつ星」の後方車両は高級感ただようデザイン
「ななつ星」の後方車両は高級感ただようデザイン

■地域の人々の想いが詰まった列車

もともとJR九州は、「D & S(デザイン&ストーリー)列車」と称する、斬新なデザインでオリジナリティあふれる観光列車を運行し、海外からの観光客にも人気を博している。デザイナーの水戸岡鋭治氏(※1)のこだわりのコンセプトが随所に施してあり、それぞれの地域の特徴を生かした「お客さまに楽しく夢のある旅」を提供してきた。

※:日本を代表する工業デザイナー、これまでにない発想を鉄道業界に持ち込んだ

当然ながら、四季折々の九州の旬の食材が集まる「ななつ星」内での料理にも、地域の熱い想いが込められている。

宮崎県児湯郡(こゆぐん) 都農町(つのちょう)という、人口1万人の小さな町がその代表例だ。2010年に口蹄疫で打撃を受け、衰退していた都農を「何とか元気にしたい」と立ち上がったのが都農町観光協会の猪股事務局長だ。運行開始を翌年に控えた2012年からJR九州に働きかけ、現在、“世界一”をうたうこの列車に、新鮮な野菜を提供している。3泊4日コースで2日目の朝食に出される“3色のジュース”は、「ごくとま」という高級品種のトマト10キロからわずか2.5リットルしか取れないシャンパンゴールドに輝くトマトジュース、手間ひまをかけた「はるみみかんジュース」、都農町の完熟したキャンベル・アーリーを絞ったぶどうジュースの3種で、鮮やかな輝きを放っている。「『ななつ星』で提供されるほどのクオリティの高い野菜やジュースがあること」が都農町の人たちにとって誇りになっている。

都農のトマトジュースは、カクテルのように澄んでいる
都農のトマトジュースは、カクテルのように澄んでいる

また、この列車に載せられた商品や伝統工芸品などはJR九州のスタッフが九州中をみて、セレクトしている。まさに、九州のショーケースといったところ。詳細なストーリーは「ななつ星セレクション」というwebサイトに紹介されている。
http://nanatsuboshi-gallery.jp/user_data/selection.php

■沿線の人々が手を振るおもてなし!

沿線の人々が、列車が通る時に自発的に手を振ってくれる風景は、今や沿線各地で見られるようになり、乗客の感動を呼んでいる。

なかでも、福岡県うきは市の山春保育所の園児たちは、運行開始以来毎週火曜日と金曜日に手を振り続けている。当時の保育士の一人が提案したことがきっかけで、園児の散歩の途中に「ななつ星」への手振りが始まった。時には、種をつけた風船を飛ばすなど、趣向を凝らした歓迎を続けている。海外からの乗客がいる際には、国籍を調べてJR九州の担当者が事前に伝え、その国の旗を作成し、列車に向かって振ることも。

山春保育所では手を振ってのおもてなし
山春保育所では手を振ってのおもてなし

このおもてなしもあって、2015年3月からはうきは駅で停車をし、フルーツの名産地であるうきは市の名産の果実を積み込むようになった。そして、その際に地域住民がおもてなしをする姿も、乗客に非常に喜ばれるようになった。

その他、由布院散策のときに、旬の季節の魅力を教えてガイドしてくれる由布院温泉観光協会の事務局長など、一緒におもてなしをしてくれる人や地域は枚挙にいとまがないとのこと。

豪華な設備や空間だけではなく、地域の誇りと思いがつまったおもてなしが「ななつ星」の大きな魅力といえよう。

実際に、ななつ星に乗った外国人旅行者は「列車の中の時間と空間も素晴らしい上に、(沿線の方々のおもてなし)が忘れられない思い出になった」と大変感激をしてくれるという。彼らに届いた想いが、九州の魅力として世界中で語られている。

■九州プレミアム商品で、まだ知られていない魅力を世界へ

一方で、運行ルートの沿線に限らず、まだ知られていない九州の奥深い魅力を発掘・発信したいと考え、「ななつ星」の企画担当者がセレクトした「“プレミアム”な九州の旅」と「ななつ星in九州」の旅をセットにした旅行商品が「プレミアム商品」として企画されている。

九州の小京都・飫肥城がある宮崎県日南市や、鉄路では行くことができない長崎県五島での教会巡礼と自然をめでる旅、佐賀県の有田焼・唐津焼の伝統にも触れながら、有数の温泉地である長崎県の雲仙をめぐる旅など、続々企画されている。

鉄道沿線やそうでない地域にも、まだ知られていない「我がまちやむらの宝」が多く存在する。JR九州の担当者は、その中からひとつひとつを探し出し、当該自治体や地域、観光協会などとともに商品や企画を創り上げて、おもてなしをしている。まさに時間と労力をかけて「九州の宝」を具現化しているのが「ななつ星」なのだ。

「九州」そのものを世界に伝えている「ななつ星」の挑戦は、まさにこれからなのかもしれない。

鹿児島県の霧島を背景に疾走する「ななつ星」
鹿児島県の霧島を背景に疾走する「ななつ星」

写真提供:九州旅客鉄道株式会社(JR九州)

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/