群馬県の山奥にある一軒宿、宝川温泉は、ロイター通信が選んだ世界の10大温泉の一つだ。野趣に富んだ混浴の大きな露天風呂が人気だという。今では宿泊客の4人に1人が外国人というほど。いったいなぜ、山奥の温泉が世界に名を馳せるようになったのだろうか。

冬になると雪が美しい摩訶の湯
冬になると雪が美しい摩訶の湯

ポイント:

・四季を感じられる露天風呂はオリジナリティがある
・混浴の新しいスタイルが外国人に喜ばれる
・宝川温泉を足掛かりに群馬県の温泉を訴求

群馬県の山奥にある宝川温泉は外国人に人気が高い。宝川温泉は、水上温泉郷の一つで、群馬4大温泉(草津、伊香保、四万、水上)にも数えられる名湯だ。

宝川温泉は、今や宿泊の4人に1人が外国人だという。さらに日帰り入浴希望の外国人も多く、宝川温泉の宿泊の予約がいっぱいのため、他の宿に泊まった上で訪ねる場合もあるという。

宝川温泉は、温泉をテーマにした大ヒット映画「テルマエロマエⅡ」で、その舞台としてすっかり全国的に有名になった。
24時間入浴できる大露天風呂には、200畳の「子宝の湯」、120畳の「摩訶の湯」、50畳の「般若の湯」という3つの混浴風呂のほか、100畳の女性専用「摩耶の湯」の4つがある。川と自然と大浴場とが織りなす景観は、日本的風情がある。

宝川温泉の一軒宿「宝川温泉 汪泉閣」の創業は、1923年(大正12年)だ。戦後は付近のダム建設などでにぎわった。もっとも利用者のほとんどは地元の人が中心だ。

宝川温泉 汪泉閣の別館和室
宝川温泉 汪泉閣の別館和室

なぜ、ここまで外国人に人気になったのか。
トリップアドバイザー(※1)のコメントも多く、水上町に温泉地が16カ所あるが、その中で頭ひとつ抜けている。
※1:トリップアドバイザーは、アメリカ発の旅行に関する口コミサイト。2億件を超える投稿数がある。

水上町では、今では外国向けプロモーションに、宝川温泉を前面に押し立てて、パンフレットやポスターを作成するほどだ。

汪泉閣の小野竹男支配人に理由を尋ねると、メディアで大きく取り上げられたのが大きいという。決してプロモーションを仕掛けたわけではないのだ。

写真入りでロンリープラネット(※2)にも掲載され、東京近隣の温泉の一つとして宝川温泉が紹介されている。
※2:ロンリープラネットとは、圧倒的な世界シェアを誇る旅行ガイドブック。全世界で愛されている。

実は、宝川温泉には、在日アメリカ人が古くから足を運んでいた。家族と一緒に骨休めを目的に来るのだ。露天風呂の野趣のある環境だけではなく、水上町で盛んなリバーラフティングやキャニオニングなどのアウトドアを楽しみに、夏のバカンスにやって来る。そんな外国人がリピーターとなった。

その後、インターネットの普及によるSNSでの口コミが一気に知名度を押し上げたという。やはり彼らの母国語で語られるほうが、インパクトが強い。

新緑の子宝の湯
新緑の子宝の湯

特にここ最近の外国人客の増加のきっかけは、2013年2月にロイター通信が発表した世界の温泉10選の一つになってからだ。

選ばれた理由としては、自然を活かしたたたずまい、宿屋の雰囲気がエキゾチック、春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色といった四季折々の景色、自然とのマッチングが素晴らしいというもの。

最近は、テレビ、ブロガーも取材にきて、その影響もある。ここ最近、急速に伸びているのがタイ人で、2014年に現地のテレビ局がタレントと一緒に取材に来た。
映画「テルマエロマエⅡ」が、台湾でも上映されると、それ以降、台湾からの客も急速に伸びたそうだ。

外国人に喜ばれる理由の一つに、「混浴もあるのではないか。」と、小野支配人。家族で温泉を楽しめるのが、ポイントが高い。
もっともここでは、タオルを巻いたままの入浴や湯あみ着(※3)をすすめている。つまり完全な裸ではないので、恥ずかしさが薄れる。
欧米人は、露天風呂に入って、半身浴で、家族と長時間のんびり語り合う。混浴のメリットを活かしている。
※3:湯あみ着とは、タオル地で作った女性専用の肌着のようなもの

汪泉閣の館内には、英語ができるスタッフも常時数名はいるものの、誰もがまずは身振り手振りで一生懸命対応をする。山奥に5つ星の接客を求めてくる人はほとんどいない。完全な英語よりもおもてなしの気持ちを大事にしたいのだろう。

紅葉の摩訶の湯
紅葉の摩訶の湯

観光庁の2015年1~3月期の訪日外国人の消費動向調査では、39.8%の外国人が「温泉入浴」を「今回したこと」として回答。「次回、訪日したときにやりたいこと」では45.7%で3位にランクされている。

「水着を着けて入る温泉施設はカナダにもあるけれど、裸になって湯船につかる日本式の入浴方法は解放的で、神経の末端から疲れがほぐれていく気がする。特に、雄大な自然が目の前に広がる露天風呂は最高」というコメントもあった。

このような外国人の温泉人気を踏まえ、群馬県では草津でシンポジウムを2015年8月に開催した。

国際観光文化交流協会と草津温泉観光協会などの地元団体が主体となり、「国際観光文化フォーラムin草津」を草津温泉ホテル櫻井で開いた。約200人の観光関係者が出席した。テーマは、「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本のおもてなしと訪日外国人旅行を考える」だった。

群馬県は、東京からのアクセスというアドバンテージをいかに活かすかが課題だ。豊富な温泉を外国人向けの観光資源にできる可能性は高い。宝川温泉という小さな温泉宿がすでに成功しているのだから。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/