新潟県の妙高高原は、11年かけてオーストラリア人が好んで訪れるスキーのメッカに変貌していった。インバウンドを知る人材の存在と地域の特徴を活かした戦略が功を奏したのだ。国内のスキー人口の減少で苦しむ豪雪地帯が、その特徴を活かしてインバウンドに取り組む様子をレポートする。
ポイント:
・インバウンドのプロによるセールスプロモーションが、ゼロからのスタートを可能に
・「豪雪」など、世界に勝てるコンテンツの発信
・オーストラリア人のリピート客による口コミで人気に拍車
■11年前に海外向けのプロモーションが始まった!
妙高は、今ではオーストラリア人に人気のスキーリゾートだ。冬場の宿泊者の9割がオーストラリア人という施設も珍しくない。このように、人気が定着した妙高が、インバウンドに力を入れたのは、11年前の2006年頃だった。
当時は、北海道のニセコが既にオーストラリア人に人気のスキーリゾート地として有名になっていたが、飽和状態だった。そこで、妙高高原と長野県北部の宿泊関係者等が、自分たちにもチャンスがあると考え「長野新潟スノーリゾートアライアンス実行委員会」を立ち上げた。妙高のほか、白馬、志賀高原、野沢温泉、JR東日本が参加して、訪日外国人をスキー場に呼び込むプロジェクトを実施している。
その活動の中心人物が清水史郎氏である。彼は妙高をオーストラリア人のスキーメッカにした立役者の一人だ。清水氏は、ANAセールス(株)で欧米向けの訪日観光の仕事に携わっていたインバウンドのプロで、東京から地元に帰り、仕事で得たノウハウをスキープロモーションに活かすことができた。
国から予算のサポートもあり、海外へ売り込みをする機会を得て、清水氏はターゲットをオーストラリア人に絞った。ゼロからのスタートだったため、知ってもらうことから始め、視察、メディア招聘、現地の旅行会社まわりなどを実施した。また、オーストラリアで毎年5月に開催されるスノーエキスポにも出展するなど積極的に広報活動を展開した。
セールスの訴求ポイントは、「豪雪」だった。日本、さらにはアメリカやカナダなど国内外に数多くのスキー場がある中で、いかに世界に勝てるコンテンツを訴求できるかが重要だという。妙高は、街中で4メートル、スキー場で6~7メートルの雪が積もる、世界でも例を見ない豪雪地帯で、一晩で1メートルぐらい積もることも珍しくないのだ。ポスターには豪雪で暮らす人の写真を使った。スキー場だと、どれほど豪雪かが表現しにくいからだ。
それでも3年ぐらいは芳しい反応が出ずに、苦労したとのことだ。しかし、リピート客や口コミ効果もあり、外国人スキーヤーは着々と増えていった。
妙高観光協会によると、訪日外客数は着実に伸びている。2006年度のオーストラリア人受け入れが、97人で延べ344泊から始まり、2010年度が1,075人で延べ7,005泊、2015年度が3,930人で延べ23,439泊となっている。
彼らが妙高を選ぶ理由は、雪質の良さだという。適度な湿度の雪が、朝になると新雪として広がっている。カナダやアメリカのスキー場は規模が大きいが、湿度が低い雪のため、サラサラし過ぎており、妙高の絶妙な雪質が豪雪と相まって人気を高めている。
■赤倉温泉にリピート客が多いのは、飲食店が多いから?
妙高エリアで一番の人気は赤倉温泉だ。ゲレンデまで歩いていける近さが好評で、また宿の近くに飲食店が多いのがポイントだと清水氏は言う。
日本人とは違い、普通、彼らは夕食を宿では取らない。近隣の飲食店は、冬のみ営業するところがあるほど、オーストラリア人によって活気を帯びている。200メートルの温泉街に多くの飲食店が集まっているのが特徴で、観光協会では英語のレストランガイドマップを作成し、国の補助でWi-Fiも整備した。
赤倉温泉の老舗宿、香嶽楼は、35部屋・最大80名が宿泊可能だが、冬場は全員が外国人ということもあるそうだ。人気の理由は、英語ができる女将の存在が大きいと、代表の村山正博氏は言う。
妙高に訪れるオーストラリア人の3分の1は、リピーターだと推察される。早いお客さんは、帰国した直後に、翌シーズンの冬の宿泊依頼をメールで送ってくるそうだ。このようなダイレクト予約の他、OTA(※1)や現地旅行会社を介しての予約など、方法は様々だが予約者のほとんどは個人旅行者だ。
※1:OTAとはオンライ・トラベル・エージェントのことで、エクスペディアやブッキング・ドット・コムが有名。国内では楽天トラベルやじゃらんがある。
赤倉温泉では、宿の外国人オーナーも増えてきた。2016年12月に、「Yuki Dake(雪だけ)」というオーストラリア人オーナーによる宿泊施設が開業した。地下にはDJがいるバーがあり、オーストラリア人好みのテイストになっている。営業初年度ながら、飲食部門の収入も大きかったそうだ。
清水氏は、このように外国人オーナーや外国人旅行者たちがSNSを使って情報発信をするので、以前ほどプロモーション予算をかけなくても発信できるようになった、と歓迎している。
■次なるステージを目指し、地域や近隣も新しいチャレンジ
赤倉温泉も変わりつつあると清水氏は言う。ホテルはもちろん、飲食店も外国人を意識したサービスを心掛けるようになってきた。実態として、外国人が大勢宿泊する宿がある一方、少ないところもある。これは飲食店もそうだ。地域で切磋琢磨していかにして外国人観光客を取り込んでいくのか、各々が真剣に考えるようになってきた。
一方で、冬以外のシーズンをどうするかが課題で、アジア向けに夏や秋の紅葉のセールスを仕掛けているそうだ。
オフシーズンの集客方法、地域へのインバウンド効果の波及方法などの課題に対し、次なるステージに向けて一歩踏み出そうとしている。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/