浅草に程近い「かっぱ橋」は、全国の食器や道具がならんでおり、料理好きには魅力の商店街だ。外国人観光客も包丁をはじめとした料理道具を求めて足を運ぶ。そこに一括免税カウンターを設置したことで、売り上げアップやマーケティングデータの蓄積にもつながっている。インバウンドを地域の売り上げにいかにつなげるかのヒントになるだろう。
ポイント:
・免税手続一括カウンターの設置で回遊性を持たせ、売り上げアップ
・テーマ性の高い専門店街に対して外国人は興味を抱く
■外国人のショッピングには免税対応が必要
インバウンドで地域を盛り上げようと頑張っても、景色を見て終わりでは、地元経済は何も潤わない。やはりいかに消費してもらうかも重要だ。一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会には、そういった行政からの問い合わせが増えているという。
今回取り上げる「かっぱ橋道具街」は、地域の強みを活かし、「免税」を軸に売り上げアップにつながった好事例だ。
「かっぱ橋道具街」は、外国人旅行者に大人気の観光地、浅草の近くにある。100年以上の歴史を誇り、南北約800メートルの通りには、包丁、和洋中華食器や漆器、和洋菓子道具と製パン機器、さらに業務用の機材を扱う約170の専門店が連なっている。
外国人には和包丁や食品サンプルが人気で、来店者数も増加傾向だ。浅草観光から立ち寄る外国人旅行者のほか、料理好きの観光客がピンポイントで訪ねるケースも珍しくない。お店では、そのような外国人から、免税対応について質問を受けるケースが増えてきた。しかし、残念なことに「かっぱ橋道具街」には1年前までは免税店はほとんどなかった。つまり、その場で免税分の返金がされないので、お得感があまりなかったのだ。
そのため、特に外国人の買い物が多い包丁屋、お菓子道具屋は、百貨店や量販店等の免税対応をしている他店で購入されるのではないかと危機感を抱いていた。そこで、免税対応について前向きに検討がなされた。
■免税手続一括カウンターの設置で、地域を回遊させたい
かっぱ橋道具街で免税対応に前向きな店舗が集まり、意見交換したところ、店舗ごとの免税対応よりも、免税の手続をする免税手続一括カウンター(※1)を設置することで一致した。それは地域全体で免税対応をしたほうが、地域の価値が上がるとの意見が出されたからだ。
※1:免税手続一括カウンターを運営する第三者に、まとめて免税手続を委託できる「手続委託型輸出物品販売場制度」が2015年4月に創設され、商店街などで免税手続き(パスポートチェック、書類作成、返金手続きなど)を一括で行う窓口の設置が可能となった。
メリットとしては、免税対応を各店舗で行う負担を軽減できる。さらに、各店舗で免税対応をする場合、1つの店舗での買い物額が5千円を超える必要があるが、商店街に免税手続一括カウンターがある場合は、その商店街での買い物額を合算して5千円になれば良い(食品などの消耗品と一般物品はそれぞれ5千円を超える必要があり、合算は出来ない)。
商店街の免税手続一括カウンターの設置および運営業務の委託は、免税対応を得意とする株式会社インサイト・プラスに決まった。そして、免税対応に興味のある店舗向けの説明会を開催。その後、要望に応じて、各店舗での免税申請手続きのサポートもした。
2016年8月のスタート時は、8店舗が参加した(2017年4月時点で15店舗)。各店舗は、初期設定費用、月々の参加費、及び売り上げに応じた手数料をインサイト・プラスに払う契約をかわした。インサイト・プラスは、免税店及び利用者からも返金額の一部を手数料として受け取り、運営費用にあてている。
カウンターの場所は外国人で賑わう商店街の南側から離れた北部の端にある。わざわざ離れた場所へ免税手続きに来てもらうことで、回遊させる仕組みを作り、戦略的にその位置に設置したのだ。
動線づくりは重要だ。インサイト・プラスは、商店街の免税店マップを作成し、各参加店に配布した。外国人旅行者はこのマップを見ながら、免税手続一括カウンターにやって来る。
免税分の返金を使って、近くのカフェに入るなど、エリア全体に貢献しているという。
■免税手続一括カウンターのメリットは、利用者はもちろん参加店舗にもある
外国人利用者からも免税手続一括カウンターの評判は上々だ。理由は、わずか2分で返金してもらえるからだ。さらにここでは、購入した商品の海外発送の代行やホテルや空港への宅配にも対応している。
参加店舗の売上は、免税手続一括カウンター導入の前年と比較して、客単価が6.1%向上し、買い回り客が29%から48%になった。また、対前年同月比で10.4%の増収効果となり、さらに、免税販売額で1億6千万円突破したのだ。
また、免税手続一括カウンターを設けたことで、免税カウンター利用客の購買履歴が数値化され、マーケティングデータとして目に見えるようになった。自分の店舗の情報だけではなく、商店街の参加店すべてのデータを共有することができるのだ。データの分析により、例えば買い物客の7割が欧米からで、3割がアジアからだとわかった。また、月ごとの売り上げの推移、どの国の人が何をどのくらい購入したのかがわかる。買い物客を年齢別でも把握できる。
参加店舗はこれらのデータを毎月フィードバックし、売り上げが見込める国の言語でPOPやポスターを店頭に掲げて誘客につなげるなど、積極的な活用をしている。
さらに各店舗は、免税商品の売り上げアップに向けて、商品の魅力を外国人に訴求していく取り組みを始めている。
かっぱ橋の魅力の1つは、目利きのスタッフがいることだ。また、商品の品揃えも豊富で、全国から選りすぐったものを独自に仕入れている。道具に関する高い知識を持ったスタッフとコミュニケーションをとることも可能だ。なかには、商品が気に入って産地を訪ねたという外国人もいたそうだ。
やはり専門店街というものには強みがある。商品力がある上に買い回りができ、さらにSNS等の発信力も加わり全体の認知度があがっていく。
インバウンドで稼げる地域づくりの、1つの参考になるだろう。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/