栃木県のインバウンドは、圧倒的に日光がキラーコンテンツだ。しかし、近隣にも魅力的な観光資源が眠っている。鹿沼市では、日本の伝統的民俗行事が残り、「鹿沼今宮神社の屋台行事」がユネスコ無形文化遺産に登録される運びだ。鹿沼は、この祭りをフックに地域活性化をはかり、次代の担い手を呼び込もうとプロジェクトを進めている。
ポイント:
・日本の原風景を体験できる場所としてパンフレットを作成
・栃木県内の那須烏山市と同じユネスコの無形文化遺産をフックに連携
・東京からのアクセスの良さを前面に出し、外国人の認知度を高めたい
■インバウンド元年、人口減少に向けた布石を打つ
2015年度は、鹿沼市にとっては、インバウンド元年という位置づけだ。鹿沼営業戦略室を新たに設置し、その一つの方向性として、インバウンドが持ち上がったのだ。(2016年度から鹿沼営業戦略課に変更)
戦略室設置の背景として、市内の人口減少問題が大きいと市の担当者は話す。鹿沼市への移住・定住の促進に繋がる戦略を進めることを目的としているのだ。また、インバウンドによる交流人口を増やすことが、市の活性化につながると期待している。
■「鹿沼今宮神社祭の屋台行事」とは
現在、「鹿沼今宮神社祭の屋台行事」が、ユネスコ無形文化遺産に申請中で、2016年の秋には登録の見込みだ。
このユネスコ無形文化遺産の申請は、2015年3月、国の重要無形民俗文化財に指定されている山・鉾・屋台を使用する祭礼行事(全国18都道府県、33件)が、一括して行われたという経緯がある。ちなみに栃木県からは、「鹿沼今宮神社祭の屋台行事」と「烏山の山あげ行事」が対象だ。
文化庁は、提案のポイントとして以下の2点をあげている。
1:
「山・鉾・屋台行事」は、地域社会の安泰や災厄防除を願い、地域の人々が一体となり執り行う。
祭礼に当たり披露される芸能や口承に向けて、地域の人々は年間を通じて準備や練習に取り組んでいる。各地域において世代を超えた多くの人々の間の対話と交流を促進し、コミュニティを結びつける重要な役割を果たしている。
2:
「山・鉾・屋台」の巡行を中心とした祭礼行事で、木工・金工・漆・染織といった伝統的な工芸技術により何世紀にもわたり維持されている。
上記2点目について、現在鹿沼市で残っている最も古い屋台は、1812年に制作されたもので、市内の久保町にある。これは、江戸時代から大切に受け継がれてきたものだ。
一方、1点目の地域コミュニティづくりの強化が、人口減少により課題となりつつある。
現在は大きな賑わいがあるが、長い目で見ると決して安泰とは言えないのだ。
そこで、多くの人に「今宮神社祭の屋台行事」を知ってもらい、さらに参加してもらえる体制づくりが求められている。
■屋台行事を外国人にPR!
2015年の「今宮神社祭の屋台行事」は、10月10日(土)と11日(日)に開催された。その際、外国人に「鹿沼」をPRするため、市は多言語による観光パンフレットを2万5千部作製した。このパンフレットは「今宮神社祭の屋台行事」を中心に編集されている。英語、中国語(繁体字、簡体字)、韓国語、日本語の5種類を作成し、祭り当日等に配布した。市の担当者によると、国の地方創生先行型交付金を活用したそうだ。
鹿沼市には、国の文化財に指定される祭りがあるなど、習俗が数多く残っていて、古き日本の原風景を感じることのできる地域だ。そこを訴求ポイントに据えた。
またパンフレットでは、東京からのアクセスもアピールした。東武特急を使えば運賃は片道1,100円、所要時間は約90分で、日帰りも十分だ。
初めて栃木に来る外国人にとっては、日光には足を延ばすが、鹿沼は素通りされる。魅力的な観光資源はあるが、限られた時間で旅行する人には、優先順位が低いのは仕方がない。
そこで、時間に余裕のある外国人として、ターゲットを在日外国人に絞るつもりだ。彼らの口コミで、鹿沼の魅力が伝わっていくことを期待している。
しかし、メインコンテンツの「今宮神社祭の屋台行事」は秋に1回だけなので、その他のシーズンをどうするかがカギになる。そこで、今後は、「外国人にも喜ばれるもの」という視点も含めて、様々な習俗や原風景を体験できるプログラムを開発していきたいと言う。
■鹿沼の観光戦略と那須烏山市との連携で次世代を呼び込め!
ところで、栃木県内にはもう一つユネスコの無形文化遺産候補に選定されている「烏山の山あげ行事」があり、450年の伝統を誇る日本一の野外劇で、鹿沼市とは宇都宮市を挟んで反対に位置する那須烏山市で行われているものだ。
鹿沼市は、この2つの重要無形民俗文化財の祭りを軸に、那須烏山市との連携を進め、2016年4月には協議会を立ち上げた。この協議会では、地元の商工会、信用金庫や地方銀行を巻き込み、地方創生加速化交付金予算をいかに活用すべきかを検討している。
というのも、両市とも、祭りを中心市街地で行っているが、人口減少で若手が減り、その祭りの継承という同じ課題を抱えているからだ。今後、新しい若い担い手を呼び込むためにも、祭りの魅力をしっかりと訴求していきたい。『つながり』を大切にする若い世代が、祭りというイベントを通して、地域とのつながりを強め、コミュニティを盛り上げていく可能性があるからだと市の担当者は言う。
そして、そういった動きを後押しするように、現在、鹿沼市内には、ゲストハウスが2カ所ある。人が集まる場所ができ、若い人たちも鹿沼を盛り上げようと頑張っている。ユネスコ無形文化遺産の登録で、地域への誇りも高まると期待されている。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/