埼玉県の飯能市は、地元の方々が、エコツアーを企画・開催し、里山の魅力を発信している。そんな彼らの取り組みを見るために海外からの視察が毎年やってくるのだ。都心から近い場所での里山体験に感動して帰って行くという。

JICAを通してアフリカから、古民家で書道体験
JICAを通してアフリカから、古民家で書道体験

ポイント

・地域住民が里山の魅力を伝える仕組みづくり
・都心からのアクセスの良さを強みにしている

 ■海外からも視察にやってくる埼玉県飯能市の里山観光とは

飯能市の里山観光が注目されている。埼玉県西部にあり、都心から西武鉄道を利用して40分ほどで着く。小高い丘がつらなり、昔ながらの素朴な風景が広がる。ちょうど平野部と山間部のつなぎ目に位置する地域だ。

そのような飯能市での里山体験を目的に、JICA(国際協力機構)を通して海外からの視察がやってくるという。

これまでの受入実績としては、例えば、2011年11月に中南米、中東から訪れた人々が「古民家の昔暮し体験」を視察した。2012年には、インド、ネパール、イラン、ベトナムからで訪れた人々が「杉の葉染めうどん作り体験」や「里山お散歩ツアー」を視察した。その他、アフリカ等を含めた世界中から、毎年、視察に訪れる。ちなみに、視察の際にはJICAのスタッフが同行して通訳するのだ。

JICAを通してトルコから、薪でご飯づくりに挑戦
JICAを通してトルコから、薪でご飯づくりに挑戦

視察の理由としては、都会からの近隣のエリアで、どのような体験がツアーとして成立するのかを知りたいからだという。新しい体験型ツアーを自国でも作りたいと思っているのだ。

また、視察で感心されるのが、マイナーな観光資源であっても、ガイドが説明を加えることによって、いっきに理解が深まることだ。さらにエンターテインメント性が増すことにも一役買っている。

 

■エコツーリズムとは

全国区とまでは言えない観光地が、地道な取り組みによって、その魅力を増している。

飯能市の観光・エコツーリズム推進課の担当者によると、里山を観光コンテンツとして商品化していったことが大きいという。

きっかけになったのが、2004年に環境省のエコツーリズム推進モデル事業(※1)に応募して、選定されたことだ。

※1:エコツーリズムの推進は、自然環境の保全、観光客の誘致による地域活性化を目指すもので、多くの自治体等への普及を目的とし、平成2004年度から3ヵ年かけて13地区の支援を実施。

選定決定の理由は以下のとおりだ。
「古くからの林業地であり大都市近郊のレクリエーションエリアである飯能・名栗地域の里山環境の維持、地域活性化をエコツーリズムの考え方の軸として進める。炭焼き体験など農林業体験と自然体験を組み合わせた多彩なプログラムが可能で、NPO等の活動も始まっている。大都市型里山保全のモデルとなりうる。」
出典:「エコツーリズム推進会議記録」2004年12月 環境省自然環境局

ここに示されているように、飯能市ではその後、実際に多様なプログラムの開発によって、都市住民の来訪の喚起に結びつけた。

また、エコツーリズムを推進することによる効果は、大きく3つあると環境省はコメントしている。

1つ目は、環境保全だ。地域の自然環境・文化資源に対しては、それらの価値が維持されるよう保全され、または向上する。

2つ目は、観光振興だ。観光業に対しては、新たなニーズに的確に対応し、新たな観光需要を起こすことが可能となる。

3つ目が、地域振興だ。地域社会に対しては、雇用の確保、経済波及効果、住民が地域に誇りを持つこと等により、地域振興につながる。

 

■飯能市と地域住民が実施するエコツアーとは

実際に飯能市でも地域住民がエコツアーに積極的に参画して、ツアー数も拡大していった。

2004年のスタート時は10ツアーだったが、現在では、100を超えるツアーが実施されている。

メニューが実に多彩で、タイトルも魅力的だ。
例えば、年2回春と秋に実施される「お散歩マーケット」、他に「ユガテの森でクラフト体験」、「昔野菜『固定種』を食べる会」、「里山のリースづくり」など。

人気企画のお散歩マーケット
人気企画のお散歩マーケット

こういったツアーの企画については、エコツーリズム推進協議会が中心になって事前協議を行い、ルールと合致したものが実施される。ルールの一例としては、「主催は、市内の在住者、在学、地域で活動している方を中心とすること」といったものが挙げられる。
ちなみに、ガイドは市民が担うこともあるがケースバイケースだ。

この企画については、当初は、エコツアーとなりえる活動をしている団体などに、協議会から声をかけていたという。しかし、最近は、団体等から自発的に提案されるものがほとんどで、それだけ、市民の意識が前向きに変わってきていると言える。
一方で、ツアーの企画や実施を新規で検討されている方々向けには、ガイド養成講座として「オープンカレッジ」があり、ツアー企画・運営のノウハウを伝える仕組みもある。

最終的に商品化されると、飯能市で取りまとめて市の広報誌、webサイトに掲載する。申し込み先は直接ツアーを主催するところになる。

このように、ツアー数が増えている背景には、主催者側の意欲が大きい。市の担当者によると、「参加者との触れ合いが楽しい。参加者に喜んでもらうことが、地域の誇りにつながっている。」といった意見が多いそうだ。
つまり、実際にツアーを実施すると、モチベーションがあがってきて、エコツアーを通した地域への貢献を意識するようになるというわけだ。

ユガテの森でのクラフト体験
ユガテの森でのクラフト体験

■さらなる里山の魅力発信の鍵を握るのは、ムーミン!?

「里山の魅力は、自然、食、暮らし、生活、文化、人との触れ合いが体験できること。」と、飯能市の担当者は語る。
実は、2017年には、この里山の魅力を海外にも訴求できるチャンスが飯能市にある。市内の宮沢湖にムーミン村が出現するからだ。フィンランド以外では世界初となる。
施設を運営する株式会社ムーミン物語によると、宮沢湖と周辺の森林は、ムーミンの世界観を体現する自然があり、この地を選んだという。遊園地というよりは、公園のようにみんなが集える憩いの場所を目指すそうだ。

施設名称は Metsä(メッツア)といい、フィンランド語で「森」を意味する。東京ドーム約 4 個分の広さになる。

このムーミン村をきっかけに今後、海外から人々が飯能へ訪れる可能性が高まる。
そこで、里山観光も外国人観光客の受け入れに意欲的に動こうとしている。外国語の対応などの課題はあるが、今後、飯能市国際交流協会との連携の可能性などを含め、いろいろと検討していく予定だ。里山の魅力を今以上に海外にも届ける日が近い。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/