商店街の活性化の延長線上に観光があった。区外からの誘客が、結果として地元の商店街を強くする。住宅街の杉並区には、有名な観光資源がなくても、魅力がたくさんあるのだ。外国人向けに、高円寺の飲食店の魅力を伝えている。

高円寺の阿波踊りは。今では東京の夏の風物詩
高円寺の阿波踊りは、今では東京の夏の風物詩

ポイント:

・民間の力を引き出し、行政は黒子としてサポートする
・探せば地元の魅力はたくさんある、そんな発想から始まった

 

杉並区は、東京23区内の西部に位置し、新宿から中央線に乗ると、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪そして西荻窪と駅が並ぶ。中野と吉祥寺に挟まれた住宅街だ。

そんな杉並区で、観光協会に似た機能を持つ、「中央線あるあるプロジェクト実行委員会」が2013年5月にスタートした。

トップページ

このプロジェクトは、もともとは商店街支援という意味合いが強く、商店街の活性化、にぎわい創出が目標だった。
スタートの2年前に、中野区に民間による観光協会が立ち上がり、吉祥寺には武蔵野市観光機構が立ち上がった。
この動きを受けて、杉並区も、中央線沿線は観光という切り口で訴求できるエリアだと再認識した。そのため、観光を含めた企画を当初から織り込んでいったのだ。観光といっても狙いは、区外から来てもらって消費してもらうことだ。そして、その結果として、商店街が活性化することを目指した。

杉並区で実行委員会が立ち上がる数ヶ月前に、地元の商工会議所、商店街連合会、町づくりのNPO団体、さらに高円寺フェス実行委員会など、地域で既にハブになっている団体に、杉並区から声がけをした。さらに動画協会というアニメ業界の団体にも連絡。実は、『機動戦士ガンダム』等の制作で知られる株式会社サンライズなど、杉並区はアニメーションスタジオが多い。

「やはり杉並区からの声がけがあったので実現した。」と、実行委員会の佐久間ヒロコさんは言う。佐久間さんは高円寺フェス実行委員会に所属している。区内には、活発な組織がいくつもあるが、区全体で何かするという意識が薄かったようだ。

最初の実行委員会の名称は、「にぎわい・商機」創出実行委員会という仮称だった。その後、仮称案から実際のネーミング決定が難航したという。

そもそも、杉並区にはスカイツリーや雷門のような、いわゆる第一級の観光資源はない。そこでターゲットをリピーターと想定した。ありきたりな東京観光から、もう一歩踏み込んだ観光を提案する。

いったい、どんな観光資源があるのか?

突出したサブカルチャーの集積=アニメ、ロック、演劇、大道芸・・・
質の高い個性的な店舗の集積=古着、カフェ、骨董、古本・・・
大衆食文化の集積=焼き鳥、居酒屋、ラーメン、そば・・・
一年中行われているイベントの数々=阿波踊り、七夕まつり、ジャズ、音楽祭・・・

メンバーによる議論で、
「中央線沿線には、いろいろあるよね!」
「あるある!」
ということで「中央線あるあるプロジェクト実行委員会」に決まったそうだ。

地方に行けば、とかく、第一級の観光地のような誇るものがない、何もないと言い切ってしまう。しかし、実はそんなことはないのだ。

阿佐ヶ谷では夏に七夕、秋にジャズフェスティバルがある
阿佐ヶ谷では夏に七夕、秋にジャズフェスティバルがある

また、実行委員会は外国人旅行者を取り込もうと、当初から考えていた。
2013年は、ちょうど日本全体がインバウンドで盛り上がりだした頃。訪日外国人観光客数が1,000万人を初めて突破した年であり、東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定した年だ。

初年度は日本人向けに重点が置かれ、2年目から外国人向けの施策が打ち出された。

具体的な活動については、実行委員会の下に作業部会という実動部隊がある。月に2回の定例会を開く。

インバウンドとして、最初に行ったのは区内の飲食店の英語メニューづくりとマップづくりだ。

当初は200軒をまとめて全域でつくるという意見もあったが、検討を繰り返した結果、高円寺駅周辺に絞ることにした。そして、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪については、2016年度以降に3回に分けて制作することとした。

高円寺の飲み屋の多さが、外国人には人気のコンテンツになる
高円寺の飲み屋の多さが、外国人には人気のコンテンツになる

高円寺はローカルな街として外国人に知られるようになり、飲食店も多いのも特徴だ。ここのキラーコンテンツでもあるたくさんの飲食店を紹介して、受け入れ環境を整備する。そのためにメニューを英訳した。指差しシートになっている英語対応の接客マニュアルも配布した。

制作予算は実行委員会が持ち、飲食店の経費負担はゼロだ。とはいっても、積極的なお店は少なかった。そのため、メニューとマップを担当している佐久間さんが各店舗を説明しながらまわりメニュー制作を募った。実際、今回の制作で一番苦労したのが、参加店舗集めだったという。

マップは2015年春に完成し、高円寺の駅、都庁や東京駅の観光案内所、区内のホテル、新宿のホテルに配布した。メニューは各店に配布済みのため、安心して外国人を迎えられる。

これに加え、マップだけではなく、Facebookを立ち上げて外国人ライターに杉並区の魅力を外国人目線で執筆してもらうことにした。

また、杉並区内では、地域ですでに活発な街のイベントを開催している。中央線あるあるプロジェクト実行委員会は、協力というかたちで関わり、告知の手伝いをする。チラシに、「協力:中央線あるあるプロジェクト」と入ると、駅のラックを使用できる等のメリットがある。

高円寺フェスではコスプレーヤーが集まるなど、新しい取り組みだ
高円寺フェスではコスプレーヤーが集まるなど、新しい取り組みだ

「実行委員会は、地元の活動を区外に向けて効果的に発信することに重きを置いている。」と、区の担当者は言う。やる気のある人がフロントに立たないと継続できないからだ。例えば、「高円寺フェス」、「阿佐ヶ谷おかえりごはん」という地元の企画を協力名目でサポートしている。
「我々は観光については、周回遅れです。だからこそ、違う取り組みに挑戦したいと思いました。」と、区の担当者は意気込む。

実行委員会形式の観光をサポートする挑戦が続いている。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/