衰退産業だった南部鉄器。職人も高齢化していた。ところが、その南部鉄器のうち注目を集めているのが南部鉄瓶で、中国の需要が急激に伸びて半年先まで予約待ちという盛況ぶりに一変。上海万博での現地の企業と組んだプロモーションが功を奏したのだ。プーアル茶に相性が抜群だということが知られるようになった。また、急須としてカラフルな南部鉄器も開発され、ヨーロッパ向けに輸出をしている。若い職人志願者も増え、息を吹き返しつつあるようだ。
ポイント:
・上海万博で南部鉄瓶はプーアル茶に適していると知名度をあげた
・海外への販路拡大により需要が追いつかない人気ぶり
・今では、岩手県の観光コースには南部鉄器の工房見学がはずせない
南部鉄瓶は中国で人気の商品だ。
「南部鉄瓶」は、手造りの商品になると、価格帯が安いもので2万円台から、高いものになると30万円台の商品もある。比較的高額な商品だが、上海をはじめ中国の富裕層を中心に人気を集めており、なかなか生産が追いついていない状況だという。
さらに、欧米でもその知名度があがっている。南部鉄瓶と並んでカラフルな急須が人気を押し上げた。赤や緑、オレンジ、白色など30色もの急須があり、ティーポットとして楽しまれている。インテリアとしてもおしゃれだと好評だ。
工房「岩鋳(いわちゅう)」がカラフルな急須のパイオニアだ。明治35年創業の盛岡市で南部鉄器の工房を営む。
平成8年頃のこと。パリの紅茶専門店から岩鋳に「カラフルな急須を作ってほしい」という依頼があった。岩鋳の職人たちが3年かけて、着色法を開発した。
現在、ヨーロッパ、アメリカ、中国、韓国、シンガポールに代理店を置いている。
さて南部鉄器だが、その始まりは、17世紀初頭にまでさかのぼる。
現在の岩手県盛岡市を中心とした地域を支配していた南部藩が、盛岡に京都から茶釜職人を招いたのが始まりだ。その後、各地から多くの鋳物師、茶釜職人を南部藩に呼び寄せ、武器や茶釜、日用品を作らせた。
有名な南部鉄瓶は18世紀になって茶釜を小ぶりにして改良したのが始まりで、手軽さから広く用いられるようになったのだ。
注:「南部鉄器」とは、調理器具のほか、日用品などの鉄全般を指し、「南部鉄瓶」とは茶釜をコンパクトにしたもので、直火が可能で用途はお茶用だ。
南部鉄瓶の岩手県内の生産は、盛岡市と奥州市が2大生産地になっている。
なぜ、これほど人気になったのか?
「平成22年の上海万博のプロモーションが、一つのターニングポイントだった。」と、岩手県庁の担当者。
上海万博には、3者による共同展示ブース出した。岩手県の他、プーアル茶で有名な「雲南省プーアル市」と上海の茶葉店の「上海大可堂茶業有限公司」という面々だ。
その際に、総芸ホールエントランスロビーに高さ1.6メートル、重量210kgに及ぶ巨大な鉄瓶を設置して、来場者の度肝を抜いた。おかげで中国のメディアにも多く露出された。
「南部鉄瓶の特徴は、プーアル茶と相性の良さにある。」と、中国のお茶関係者はいう。水を沸かして飲む際に鉄分が加わり、プーアル茶の雑味がとれる。
高温沸騰が可能なため、お茶の道具として優れているが、以前は、一部の通なお茶好きにしか知られていなかった。
中国の日常生活に欠かせないプーアル茶。現地で「南部鉄瓶」を販売する上海大可堂は、中国茶の製造・販売会社であり、平成19年に岩手県がバイヤーとして招聘して以降、岩手県との経済交流が始まった。
岩手県は、台湾のプーアル茶の専門紙である「五行図書」に広告を掲載するなど、ターゲットを絞ったプロモーションを進めた。
南部鉄瓶は芸術品としての素晴らしさも評価され、富裕層を中心に広がりを見せている。岩手県は今、特産品である「南部鉄瓶」の中国販売に力を入れている。
口コミの影響もあり、認知度が高まり、現在は盛況ぶりに生産が追いついていない。カラフルな急須は機械生産だが、プーアル茶向けの鉄瓶は職人による手作りのみ。斜陽産業だったので、職人が減っている。また工程が多く、一人前になるには最低でも5年以上の修行が必要。すぐに職人を増やすことができない。
手作業による工程が60~65もあり、すべてにおいて経験による熟練の技術が必要とされる。
奥州市では、職人が10人しかいない。他に見習いが4人いるが、職人として1人前になるには、あと数年かかる見込みだ。10人の職人のうち、30歳代が一人、40歳代が一人、あとの8人は60歳代から80歳代と高齢者ばかり。
国内の需要が先細りとなり、技術の継承さえ危ぶまれたが、中国での人気で息を吹き返し、若手も増えてきた。
岩手県を訪れる外国人旅行者は、工房見学をコースに入れる。バスによる団体ツアーが多い。盛岡郊外にある手作り村や岩鋳で工房見学をする。ガラス越しに製造現場を観察できる。
岩鋳では工房見学コースのほか、売店があり、昨年(2015年)から免税店の登録をした。南部鉄瓶を求める中国からの団体が多いからだ。
同じく昨年の暮れ、南部鉄器の工房見学ができる「盛岡手作り村」も免税店になった。POSなどの帳票が簡単な免税システムも導入予定で、今年の2月から本格稼働する。さらに外国人対応の電話通訳システムの導入を行う。
東北での中国からの旅行者は、ゴールデンルートや九州に比べるとまだまだ少ない。リピーターが増えたときに、南部鉄瓶を訴求ポイントに据えることも可能だろう。奥州市で開催された南部鉄器まつりには外国人客が団体で大量購入をしたという。
また、カラフルな急須は、ヨーロッパの他、オーストラリアでも人気が高まってきたという。その生産地としての受入整備が求められる。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/