中国人の北海道人気のきっかけをつくった立役者といえば、映画、「狙った恋の落とし方」(中国名『非誠勿擾』フェイチェンウーラオ)だ。ロケ地を訪ねるために多くの観光客がやってきた。それを実現させるため、いくつもの行政機関が連携した。それもスピード感を持ってだ。今ではブームも落ち着いたが、認知度向上には一役買った。映画ロケ地を活用したフィルムツーリズムには、賞味期限があるのは事実だ。しかし、これをきっかけに、北海道を知ってもらえたという功績は大きい。
ポイント:
・中国映画のヒットを観光誘致につなげる施策を次々に打ち出す
・各関係者が連携して、新サービスを生み出す
中国人の北海道人気のきっかけとなった映画がある。タイトルは、「狙った恋の落とし方」(中国名『非誠勿擾』フェイチェンウーラオ)だ。
北海道の美しい映像が、中国人の琴線に触れたのだ。
2008年の12月、映画公開後上映開始 1 カ月の興行収入は 3 億 4,000 万元(約 47 億 6,000 万円)で、当時の歴代興行成績1位を記録した。
映画後半の舞台が、東北海道(釧路、阿寒湖、網走、厚岸、斜里、美幌)で、ロケ地を訪ねる中国人が増えていった。それをきっかけに、北海道観光ブームが始まったのだ。
ストーリーは、米国に留学経験のある男が、投資で大当たりして、一晩で億万長者となった。結婚相手を求めて杭州、海南への旅に出る。その過程で、出会った女性と北海道への旅に出る。女性は、過去に付き合った男性への思いをなかなか断ち切れずにいるが、悲喜こもごもの旅を続ける二人は、徐々に心を通わせていく。男女が織りなすラブコメディーだ。
この映画の監督を務めた馮小剛(フォン・シャオガン)氏が、2007年に来日した際に、「北海道に行きたい」と話したところ、コーディネートしたのが友人である上海出身で日本国籍を取得した宇崎逸聡さん。日本側のエグゼクティブプロデューサーも務めている。2006年、たまたま友人らと道東を車で回り、その景観に感動したという。そこで馮小剛氏と一緒に道内の東側ばかりを巡った。
この風景を見た同監督は、北海道を舞台にした映画製作を決意した。
ロケ地となった釧路市(阿寒)、弟子屈町、斜里町、網走市の各自治体と連携して、宇崎氏はロケ実施に協力した。
ロケ地は、以下の場所となった。
網走市:北浜駅、能取岬
厚岸町:国泰寺、厚岸道立自然公園
釧路市:炉端~煉瓦、阿寒湖温泉、阿寒国立公園、ホテル~鄙の座・鶴雅、炉端~浜っ子、ANAクラウンプラザ釧路
弟子屈町:阿寒横断道路、屈斜路湖
斜里町:キリスト兄弟団斜里教会、岩尾別温泉、斜里町立国保病院、国設知床野営場、知床国立公園
美幌町:美幌峠
2008年12月18日に中国で上映されてから、ロケ地である北海道東部の釧路市と、厚岸町、弟子屈町や網走市などが、映画の観客の大きな注目を集めた。
この映画をチャンスと捉えて、JNTO(日本政府観光局)北京事務所では、ロケ地ツアー造成への手がかりを探った。映画の影響力は、最大瞬間風速が大きいものの、上映が終わると忘却のプロセスに入る。だから春節までが勝負とみて、情報収集とプロモーションの準備を急いだ。当時の北京事務所長は、その前職が北海道運輸局だったので、道内への人脈が豊富にあり、それが活かされた。
戦略としては、2月中旬以降のメディア露出をして、忘れられないうちに実際の「旅行」へと関連づけをすることを目指した。
かくして、北海道庁、北海道運輸局、JNTO北京事務所など、関係各所が連携してロケ地プロモーションが予算組みされ、具体化する運びとなった。
まず第一弾として、日本側は2009年1月29日~2月6日に『新京報』など北京と上海のメディア6社の記者を招へいするメディア向けツアーが実現。
年明け前からのJNTOによる仕込みがなければ、間に合わなかっただろう。
釧路湿原、摩周湖、知床半島などの観光コースに沿って、タンチョウヅルを観賞したり、流氷船に乗ったりして、北海道のシンボル的な景観を案内した。
道内のホテルも協力し、映画にも登場した「ホテル~鄙の座・鶴雅」に宿泊した。
次に、2月28日に北京で北海道のPRするイベントが展開された。
北京展覧館劇場を借りて、北京市民や旅行社の関係者を2,000人招待し、映画『非誠勿擾』を上映したあと、北海道観光説明会を行った。多くの写真を使って北海道の魅力的な観光資源のPRに力を注いだ。
最後に、北京の大手旅行会社5社が共同して映画に関連する北海道旅行商品の造成がなされた。旅行社による観光客誘致を促し、サポートするため、日本側は『新京報』、『北京娯楽信報』などに大型観光広告を出稿。北海道の景観や民俗の魅力をPRした。
そして、わずか1か月後の、2月から3月にかけて3本、約100名のツアーが催行されたのだ。
もちろん、夏の本格シーズンには、さらに多くの集客となった。
斜里教会には、映画が公開されるまで中国からの観光客は皆無だったという。現在ここを訪れる中国からの観光客の多くは、映画のシーンを真似て中国語でお祈りし、写真を撮ってゆく。当時、一年間に訪れた観光客は2,400人以上にのぼった。
やはり映画のロケ地になった阿寒湖温泉の宿泊数は、2008年一年間で741人であったが、2009年は9月末までにすでに5,732人にのぼり、約8倍となっている。
「たんちょう釧路空港」にお迎えサービスという新しい取り組みも打ち出された。中国語メニューを作成、街中の標識・案内表示等を整備したのもこの時期だ。中国人観光客に不便をさせたくないとの理由で、釧路市が取り組んでいた。
しかし、ロケ地ツアーの盛り上がりは、ひと息つき、当時あったお迎えサービスは現在休止中だ。「ロケ地マップや中国語版パンフレットの在庫が残るものの、今でもエリアの紹介には役立っている。」と、釧路市の観光担当者はコメントしている。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/