国内でインバウンドが立ち遅れていた地域である東北を盛り上げようと、地元の7つの新聞社が連携して立ち上がった。キラーコンテンツとして打ち出したのが「樹氷」だ。復興庁の採択事業を絡め、ツアーづくりや海外でのプロモーションを実施。これまでの経緯を追った。

まさに樹氷は雪のモンスターのような雰囲気だ
まさに樹氷は雪のモンスターのような雰囲気だ

ポイント:

・東北におけるインバウンドの課題である冬のオフシーズンの誘客について、「樹氷」をその切り札に
・復興庁採択事業を足掛かりに旅行会社、地元自治体との連携等、事業化が進む


■東北七新聞社協議会の企画した事業が復興庁の観光モデル事業に選ばれた

復興庁は2016年4月、東北の観光復興を目指し外国人を誘客する「『新しい東北』交流拡大モデル事業」に13件を採択した。採択されれば、新たな旅行商品の開発や誘客増に向けた効果的な広報活動を展開するための経費が一件当たり3000万~4500万円助成される。

選定事業の1つが、「冬の東北『樹氷 TOHOKU SNOW MONSTER』ブランドの商品展開」である。提案したのは、東北七新聞社協議会(※1)の幹事社を務める株式会社福島民報社だ。
内容は東北6県の樹氷観測地をツアーで巡り、外国人に冬の風物詩を楽しんでもらうというもので、主にオーストラリアや中国、台湾からの誘客を想定している。

※1:東奥日報社、秋田魁新報社、岩手日報社、山形新聞社、河北新報社、福島民報社、福島民友新聞社が加盟する任意団体。1995年に設立され、主に東京支局のスタッフが活動している。

オーストラリアで開催されたスノーエキスポにブース出展して樹氷もアピール
オーストラリアで開催されたスノーエキスポにブース出展して樹氷もアピール

■「樹氷」は、東北が世界に誇るキラーコンテンツ!

ところで、新聞社がなぜインバウンドに力を入れるのだろうか。

協議会で東北各県の共通する課題とその糸口について議論している中で、交流人口を増やすことも課題ではないかという話が持ち上がった。2015年の国勢調査では東北6県の人口が900万人を下回っており、定住人口の増加も大事ではあるが、今後は交流人口も増加させるべく、国内だけではなく海外にも目を向けなければならないと考えた。

しかし、現状では交流人口は多くなく、2015年の訪日外国人約1,900万人のうち、東北にはその1%台しか来ていないことがわかった。

そのため、なぜ東北に足を運んでもらえないのか、どうすれば来るようになってもらえるのか、議論が繰り返された。
特に注目されたのが、冬の閑散期だ。そこに力を入れるべきではないかと考えた。
北海道や長野県はインバウンド向けに、冬のスキーが成功している。夏よりも外国人客を集客するエリアもあるという。
ただし、「スキー」を訴求するだけでは前述の先進エリアに追い付くのは難しい。そこで、東北に共通する強みとして挙がったのが「樹氷」であった。実際に、既に山形の樹氷が台湾で人気が出つつあった。

樹氷は気象条件が重要で、強風、湿度、降雪量が揃わないとできない。しかも海外では、かなりの山奥に行かないと見ることができない。
一方、東北の場合は、例えばリゾートホテルのすぐ近くで見ることもでき、気軽に楽しめる。青森の八甲田、秋田の森吉山、山形の蔵王、岩手の八幡平、宮城の蔵王、福島の西吾妻と各県に樹氷の名所が点在するのだ。

蔵王の夕暮れ時の樹氷は神秘的な光景だ
蔵王の夕暮れ時の樹氷は神秘的な光景だ

■連携により実現した「樹氷」の観光プロモーション

東北七新聞社協議会は、テーマは見えてきたが、具体的にプロモーションや誘客となると自分たちだけではできないと壁にぶつかっていたところ、2016年1月、復興庁が東北への外国人旅行者の誘客に繋がる取り組みを支援する、「新しい東北」交流拡大モデル事業を知った。この事業に東北七新聞社協議会として応募することになり、東北の大手旅行会社と連携して、実際のプログラム(ツアー)づくりをお願いすることになった。一方、地方新聞社としての強みは、地域の情報や人脈が豊富なことで、関係自治体や観光協会に協力の要請を打診することができた。

そして、2016年4月にこの企画が復興庁に採択された。
その内容とは、樹氷を見学する主要コースとして山形、秋田、青森を周遊し、準エリアとして岩手、宮城、福島を結ぶものだ。さらに現地オプショナルツアーも造成され、樹氷を見るゴンドラや雪上車体験、カラフルな照明による雪のライトアップといった見どころが用意されている。

また、「東北導遊図」というマップを作成した。東北のマップのほか、樹氷の名所へのアクセス、地域の解説、樹氷の説明、樹氷体験のオプショナルツアーも掲載している。加えて、スマホで閲覧できるQRコードも掲載した。
このマップは、旅行会社、展示会、空港、羽田や成田の乗り換えカウンター、観光協会、地元のホテル等に設置した。

樹氷をテーマにしたツアー商品と冊子が整ってからは、海外の旅行博にも出展した。ターゲットとしていたオーストラリアで5月にスノートラベルエキスポが開催され、樹氷について関心を持ってもらうことができた。すでに日本のスキーリピーターもいて、「田舎」や「秘境」というキーワードに興味を示し、期待していた以上に多くの人に立ち寄ってもらったと福島民報の担当者は言う。

雪上車に乗って樹氷を見学するコースが外国人にも喜んでもらった
雪上車に乗って樹氷を見学するコースが外国人にも喜んでもらった

一方、中国では、10月に上海で開催されたビジネスジャパン上海・大連という展示会に出展し、現地の旅行会社へのセールスを実施した。また、台湾では、12月6日から12日に「日本東北游楽日2016」という商談会が開催され、ブース出展をした。ちなみにこれは、JNTOが主催した東北に特化した展示会だ。

モデル事業の期間は選定されてから2017年3月末までとなっており、2017年2月に開催された成果報告会では訪問者数1,274人(のべ泊数4,702)との実績が報告された。

地域の新聞社は、地域の旅行社だけでなく、各県の観光担当者との繋がりもあり、自治体の賛同を得て、ともに東北をPRできた。この取組は、東北七新聞社協議会が中心となったからこそ、地域で上手く連携することができた事例だといえる。
東北七新聞社協議会は、あくまでもきっかけ作りが目的で、今後は地域で「樹氷観光」が自走していくこと見守っていくそうだ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/