北海道は、雄大な自然が魅力となって、アジアはもちろんスキー目的のオーストラリア人からも支持されている。一方、世界的旅行雑誌、「ナショナル・ジオグラフィック」にとっては、自然だけではなく、アイヌ文化が北海道の訴求ポイントだとみる。欧米豪をターゲットとした新しい市場開拓の取り組みをリポートする。
ポイント:
・欧米豪に向け、自然と文化を組み合わせたコンテンツを訴求
・海外での商談会でアイヌ文化が訴求ポイントになることを確信
■世界的雑誌のナショナル・ジオグラフィックは、アイヌ文化に興味?
2016年3月に北海道新幹線が開通し、新青森から新函館北斗まで延伸した。
北海道運輸局では、ジャパンレールパスを活用して長期で全国をまわる欧米豪人の陸路による北海道訪問が増えると予測している。夏の札幌や小樽、富良野などは、圧倒的にアジアに人気の観光コンテンツとなっているが、今後は欧米豪に間口を広げられるチャンスだと考えた。もっとも、冬のニセコ等の一部のスキー場にはすでに欧米豪からスキー目的の観光客が訪れている。
そこで、スキー目的以外の伸びしろの大きい、欧米豪の一般的な旅行者を次のターゲットに据えて、2014年に、北海道新幹線利用による誘客を促進させるために何をすべきかの検討や施策が始まった。
その際、北海道運輸局では、北海道の大自然はもちろん、さらにアイヌ文化を欧米豪向けに訴求ポイントに加えることにした。というのも、その1年前のメディア招聘事業がきっかけだったと担当者は振り返る。
2013年、北海道運輸局は、VJ(ビジットジャパン)予算による北海道のプロモーションのために、世界的な旅行雑誌である「ナショナル・ジオグラフィック」に取材を呼びかけた。なぜなら、この本は欧米豪では知名度が高く、その影響力を期待できるからだ。
その交渉にあたっている中で、専属カメラマンから「アイヌを取材させてもらえるなら、是非、北海道を訪ねたい」という回答をもらった。
アイヌは、海外では北海道の先住民族として紹介されている。
例えばニューヨークの自然史博物館では、日本文化を紹介するコーナーの横に、アイヌの民俗資料が別枠で並んでいる。先住民族について、欧米では高い関心を持っていることがうかがえる。
そして、2014年の春に、北海道運輸局は、アイヌ文化が残る場所を中心に取材を行うナショナル・ジオグラフィックのカメラマンのサポートをした。さらに、同じく世界的な旅行雑誌、「ロンリープラネット」のライターも招聘した。
アイヌミュージアムのアテンド、アイヌの老人へのインタビューのアポ取り、アイヌ料理の提供等、希望に沿う形でアテンドをした。結果、良い取材ができたと喜んでもらい、雑誌にも掲載された。このようなメディア招聘事業を通して、アイヌを絡めたプロモーションに自信を持って進めるようになったという。2016年3月の新幹線開通へ向けて重要な訴求ポイントになったのだ。
■自然体験型の世界の商談会で、北海道の大自然とアイヌ文化を訴求
最近の活動としては、北海道運輸局が中心になって、2016年の秋にアラスカで開催されたATWSという自然体験型のツアーなどを紹介する世界的な旅行商談会に北海道ブースを出展した。
これを主催するのは、ATTAというアドベンチャートラベルを標榜する世界最大の団体だ。構成員として世界の旅行会社、メディア・ライター、各国の観光局、世界各地の観光協会、ネーチャーガイド、アウトドア関係のメーカーなど約1,000団体が加盟している。
コンセプトは、世界の「自然」はもちろんだが、さらに「アクティビティ」、「異文化体験」が組み込まれ、そのマッチングを目指している。
ATTAは、欧米のラグジュアリーツアーの中心的存在となりつつあると同運輸局の担当者は言う。2013年のATTA資料によると、市場規模(欧米のみ)は、2,630億ドル(27.9兆円)だ。
このATTAの世界サミットであるATWSにおいて、北海道が日本からは初めてとなるブース出展を行った。そして、カヌーやバードウオッチング等をPRするのに併せて、自然と共生してきたアイヌ文化も紹介した。
今回のATWSで、「北海道」の知名度を上げることができたと、同運輸局の担当者は当時を振り返る。ブースには北海道に関心のある70社以上のエージェントが立寄り、ネットワークを築くことができた。
今後、魅力的なモデルコースの企画提案など条件が整えばツアーが催行される可能性は高いと考えている。また、外国メディアの取材申込みも届き、今後、「自然・アクティビティ・アイヌ文化」を3本柱として訴求していく予定だという。
■観光において、アイヌを取り巻くニーズが高まりつつある
実際に北海道白老町にあるアイヌ民族博物館は、欧米豪からの誘客を歓迎しているという。
年間約20万人の来訪者のうち、既に海外からの来訪者が3割程度を占めている。アジアからの団体客が圧倒的に多く、欧米は推計値で外国人の中で2割ほどのシェアだと同博物館の担当者は言う。
アジアの団体客は、テーマパークの一つという感覚で訪れる一方で、欧米豪からは文化人類学に興味がある人に限られているという。だからこそ、一般的な欧米豪人は伸びしろがあると考えている。
北海道全体としても、アイヌを訴求ポイントにすることが増えつつあると同担当者は言う。ここ最近、観光関係者からアイヌについての相談が増えているそうだ。
道内各地にはアイヌ関連の博物館が多く点在していて、札幌で連絡会議がある。直近の会議では、盛り上がりつつあるインバウンドの動きに対して、横のつながりを強化して、正しいアイヌ文化を伝えることを確認し合ったそうだ。
インバウンド先進地域の北海道で、自然とアイヌという切り口で、次なるフェーズに向けた動きが進み出している。今後を見守りたい。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/