福島県の観光をサポートするために着任した外国人スタッフ。彼女はイギリス出身のJETプログラムの卒業生だ。日本語が堪能で日本文化にも造詣がある。外国人目線で、地域の魅力を発信する取り組みが始まった。
ポイント:
・JETプログラムの卒業生が外国人目線に一役買う
・職員として正式採用して、地に足のついた活動に期待
■地元の考えだけでは行き詰まる、外の意見を取り入れたい!
福島県では、訪日外客数が伸び悩んでいる。特に東日本大震災以降、風評被害に苦しめられ、新しいインバウンドの取り組みが求められていた。温泉、果物、紅葉、宿場町の古い街並み等、観光資源は県内に豊富にある。しかし、うまく海外に魅力が伝わっていないのだ。
そこで公益財団法人福島県観光物産交流協会内では、打開策に向けた意見として、果たして地元福島県人だけで考えたり、プロジェクトを構築したりするだけで良いのか、という話が持ち上がった。それこそ、日本人ではなく、外国人に関わってもらい、彼らの目線による情報発信が必要ではないかと考えたのだ。
その方向でリサーチした中で、和歌山県にある田辺市熊野ツーリズムビューローの取り組みが、ベンチマークとなった。田辺には、ブラッド・トウル氏というカナダ人スタッフがいる。彼はプロモーション部長として、外国人の受け入れ増加に貢献し、地元の文化にも精通している。海外への英語での情報発信、商談会での説明、地元での受け入れ促進のための説明会等を担っている。
このブラッド氏の活躍を知った福島県観光物産交流協会は、このように外国人目線を持ち、しっかり地域に溶け込んだスタッフを育てたいと考えた。
ところが、同協会が求めるような、日本語が堪能で日本文化に造詣がある外国人をどうやって見つけるのか、皆目検討がつかなかった。
そこで、まずは福島県庁で働く国際交流員に相談をした。彼らはJETプログラム(※1)参加者としてクレア(一般財団法人自治体国際化協会)を通じて配置された外国人スタッフだ。
そして、教えてもらったのが、クレアが主催する「JETプログラム・キャリアフェア」だった。
※1:JET プログラムとは、語学指導等を行う外国青年招致事業(The Japan Exchange and Teaching Programme)の略で、外国青年を招致して地方自治体等で任用し、外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図る事業のこと
■JETプログラム・キャリアフェアには、優秀な外国人が参加?
このフェアは、もともと外国人の高度人材のマッチングを目的とするJOBフェアで、2014年に始まった。
参加する外国人は、JETプログラムの任期終了が近い、または、既に終了した人たちで、日本で引き続き働きたいという意思を持った人たちだ。
そもそもJETプログラムの参加者の中には、日本語が堪能な外国人も多い。
また、日本で生活していたので、当然、日本文化への理解度も高くなっている。
2016年9月に実施したアンケート結果によると、回答があった約2,000人のJET参加者のうち、約4割の参加者が任期終了後も日本に居住したいと回答している。しかし、実際には、日本での仕事が見つからないなどの理由により、終了後に帰国したJET参加者も多くいるのだという。
一方で、優秀な外国人を採用したいという企業や団体もある。一般企業、観光協会、ホテル等、特に海外展開を想定している企業だ。外国人人材の採用の実績とノウハウが少ない地方の中小企業の参加も多い。
その双方の想いをマッチングさせるために始まったのが、この「JETプログラム・キャリアフェア」だ。
2016年の3月に幕張で開催された際には、求人を募る53団体が参加し、23名の採用が決まった。その1つが、福島県観光物産交流協会だ。
ブースを出展した同協会は、興味を持ってくれた外国人たちに福島県について説明。その後、実際に応募のあった中から10人に絞り、4月に面接会を実施した。
最終的にイギリス出身のゾーイ・ヴィンセントさんが採用となった。彼女は、長崎県の雲仙市で外国語指導助手(ALT)として働いていた方だ。もともとは早稲田大学に留学のために来日し、その当時、東日本大震災の爪痕の残る宮城県の石巻へ視察に行ったのだという。東北の復興が卒論のテーマとなり、今でも復興を応援したいという意欲を持っていたため、採用に至ったのだ。
そして、8月8日付で福島県観光物産交流協会に着任した。
■外国人スタッフのゾーイさんが県内や海外で活躍している
さて、ゾーイさんには、まずは福島県を知ってもらうため、県全域の主だった観光地を訪ねてもらった。
そして、9月以降は、例えば、マレーシアのクアラルンプールに出張し、旅行博(MATTA)で現地旅行会社との商談をした。
また、東京の台場で、トラベルマートというインバウンド商談会に参加した。
さらに10月にはオーストラリアに出張した。福島県の主催による物産会があり、観光プロモーションを担ったのだ。
一方、県内では、外国人を呼び込みたい小さな市町村のサポートをしている。例えば、ペルーのマチュピチュと大玉村が姉妹都市提携をしていて小学生の交流会があった。その際に、応援に駆け付けたそうだ。
ゾーイさんの感じる福島県の魅力についてうかがったところ、
「福島県は、海外で既に有名な観光地に負けない自然が豊かで、日本の伝統に触れる機会があります。観光地として広く知られていないため、ストレスの多い人込みがある観光地より、マイペースで旅行したい訪日観光客にぴったり合う」とのことだ。
ところで同協会の吉岡氏は、福島の魅力を伝える彼女のブログについて、いかにしてフォロワー数を増やしていくのか等、常に改善を考えている。くわえて、地元の日本人があたりまえと思っていたことが、ゾーイさんには魅力的に映ることが分かってきた。今後は、それをいかに海外にリーチさせるかが課題だ。
ゾーイさんは、和歌山県の熊野ツーリズムビューローのブラッドさんと連絡を取り合って、アドバイスをもらっているそうだ。彼ももともとは、JETプログラムで来日して英語教師になり、観光協会に転じたのだ。
今後も日本好きなJETプログラムの経験者たちが、全国のインバウンドの担い手になるかもしれない。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/