全国でマラソン大会が増加傾向だが、宮城県登米市で開催される「東北風土マラソン」はひと味違っている。様々なイベントとの同時開催が魅力的なのだ。今年(2016年)で3回目という新しい大会だが、毎年参加人数が増えて、しかも、外国人の参加者も増えているという。いったいどんなマラソンなのか、その魅力に迫った。
ポイント:
・東北の震災復興に寄り添うマラソン大会を民間主導でプロデュース
・フランスにあるメドックマラソンをモデルにした大会を宮城県に根付かせる
■「メドックマラソン」と震災復興への思い
宮城県登米市で春に開催されるユニークなマラソン大会が、2016年で3回目を迎えた。国内のみならず、海外からも約100名が参加して、年々参加者の数が増えているという。
この大会の生みの親とも言える竹川隆司・東北風土マラソン&フェスティバル2016実行委員会副委員長によれば、この大会は純粋に東北への震災復興の想いで始まったという。特に東北にゆかりがある訳ではないが、メドックマラソンのようなものを東北で開催すれば、震災復興に貢献できると強く感じたそうだ。
このメドックマラソンとは、フランスのボルドーワインの有名産地であるメドック地方で、毎年ぶどうの収穫直前の9月に開催され、ぶどう畑の中のコースを参加者が仮装をして走るのだ。給水ポイントでは、水だけでなくシャトー自慢のワインや、地元名産のオイスターや生ハム、ステーキ、チーズといった補給食が用意され、地元の料理を楽しむことができる。
世界中からマラソン愛好家が押し寄せ、日本からもいくつもツアーが組まれる程の人気だ。
実際に、2012年9月に開催された大会に竹川氏も参加したという。
その時、東北で同じようなマラソン大会を始めるにあたり、大会関係者にも話を聞き、運営についてのノウハウも教わった。また、日本版としての公認をいただく約束も取り付けた。
「ランナーも、ボランティアも、地元の面々も、ワイナリーの人々も、応援の旅行者も、皆、楽しいお祭りをしている印象でした。」と、メドックマラソンに参加した当時を振り返って竹川氏は言った。
ところで、なぜマラソン大会の開催地が宮城県の登米市に決まったのか。それには理由がある。
本来は、三陸など震災の被害が多い海岸沿いが竹川氏の希望だった。しかし、まだ多くの工事車両が出入りしていて、復興作業の真っ最中であり、これではマラソン大会どころではない。マラソン大会を開催するには、長時間、一定区間の道路を封鎖する必要があり、復興の妨げとなることが懸念されたのだ。
そこで、交通の要衝として震災時の物資供給の拠点にもなった登米市が候補になった。石巻、気仙沼などにもアクセスが良く、東北の食材を広く集めたいと考えていたので、ルートとしては最適だったという訳だ。
■第1回「東北風土マラソン」の開催に向けてのヒストリー
2014年の第1回開催に向けての準備が始まった。
コンセプトは、以下の4つに決めた。
・景色も食事もみんなで楽しむ、日本一のファンラン!
・東北の食材と日本酒の魅力を、世界に向けて紹介・発信する!
・東北各地域を巻き込むトータルイベントとして、一大観光事業の創出をめざす。
・3.11を忘れない。復興応援ツアーに参加し、東北復興に寄り添う機会を提供する。
大会名は、「風土」と「Food」を重ね合わせた。
さらに、大手運動靴メーカーがスポンサーに決まった。
開催に際しては、登米市観光物産協会、商工会議所、青年会議所の協力があったおかげで、地元との距離が一気に縮まったそうだ。
登米市観光物産協会の地元のネットワークはもちろん、近隣自治体とのつながりから、南三陸町、気仙沼市など、良い連携が生まれていった。
また、地元で、一軒ずつ大会の案内をポスティングしていき、住民の理解を求め、同意書をいただけるまでになった。
■「東北風土マラソン」の魅力とは!?
このようにして始まった東北風土マラソンだが、「食と日本酒のフェスティバル」といったような関連イベントを同時開催するということも特徴の1つだ。そういったイベントでは、例えば、東北の地酒、三陸の笹かま、気仙沼のフカヒレスープ、一口サイズのホタテやホヤなど、地元の食材を楽しむことができるのだ。
また、託児所や子供たちの遊び場も併設し、ランナーのみならず、家族・友人連れで楽しんでもらうことが可能だ。
地元の方々も回を重ねるごとに前向きな意見になってきた。孫が楽しみにしているという年配者の声もあった。実際に、給水所の食を出すボランティアも地元の手伝いが増えたそうだ。
さて、この東北各地の魅力を届ける企画は、参加ランナーから高い評価を受けている。
それは、参加人数にも反映されていて、毎年増加している。
2014年大会のランナーは1,300人だったが、翌年の参加ランナーは3,000人へと成長。関連イベントを含めた会場への2日間の来場者数は27,000人を記録した。加えて、ランナーの4割強を宮城県外から集客し、1億円以上の経済波及効果を生み出したという。なお、2016年大会は、4,000人の参加を記録し、イベント来場者数はのべ37,500人となった。
しかも、昨年の大会終了後のアンケートでは、参加したランナーの93%が、「満足」「やや満足」と回答したという。
ちなみに、「知ったきっかけ」は、「友人・知人・家族にきいた」「昨年参加した」など、リピーター、口コミ比率が高いようだ。
2015年大会には、海外から60名のランナーが参加したが、2016年は100名を超えた。
また、主催者側は、フランス・メドックマラソンとの関係も年々強化している。メドックマラソンに出向き、東北風土マラソンを案内するブースを出して欧米からの呼び込みを目指している。
ランニングのネットワークにも働きかけ、影響力の高い外国人にピンポイントで紹介していった。おかげで2015年には香港のメディアの方が参加した。その結果、香港のランニングメディアにも掲載され、知名度があがり翌年の参加人数にも影響したそうだ。
そして、2016年大会も無事、4月24日に開催された。
今回も東北風土マラソン、登米フードフェスティバル、東北日本酒フェスティバルが同時に開催された。前後して南三陸復興ツアー、東北酒蔵ツアー、登米風土ウォーキングが開催された。ランナー以外の人でも楽しめる要素が網羅されているのも人気の秘訣だろう。今後、いかに継続されていくか楽しみだ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/