うさぎの島として有名になった瀬戸内海に浮かぶ小さな島がある。それが竹原市にある大久野島(おおくのじま)だ。海外でも知られるようになったのを機会に、竹原市では、うさぎや島の情報発信に力を入れるようになった。一方で、もともと観光素材としてPRしていた伝統的建造物群保存地区へ、いかにして外国人観光客を誘客させるか議論が進行中だ。
ポイント:
・うさぎの島として大久野島がユーチューバーによって発信された
・古民家が並ぶ町並み保存地区の観光促進は、慎重に進めていくことに
■かつては毒ガス開発の島、現在はうさぎの島として海外でも人気に!
広島県竹原市にある瀬戸内の島、大久野島では、うさぎとの触れ合いを目的に外国人観光客が増えている。来島者は、ほとんどが日帰り旅行だ。うさぎは人慣れしているのか、人が来ると寄ってきて愛らしく餌をねだり、心を和ませる。
ところで、大久野島になぜうさぎが沢山いるのだろうか。
それは、1971年に対岸の小学校で飼っていた8羽のうさぎを大久野島に放したのが始まりと言われている。外敵となるトビ、カラス、蛇が少なく、繁殖力があるために700羽(2013年調査)にもなったのだ。
また、うさぎ以外の観光目的として立ち寄るのが、大久野島毒ガス資料館だ。愛くるしいうさぎとは対象的に暗黒の歴史を背負っている。
戦前、この島では大量の毒ガスの製造・研究がされていて、軍事機密のために地図に掲載されていなかった。そのため、この島の存在は殆ど近隣の広島に住む人にしか知られておらず、現在も島に住人はいない。戦後、休暇村(※)にして国が管轄しているが、うさぎブーム以前の2001年時点での休暇村宿泊施設利用率は50%以下であったという。
※休暇村:国立公園、国定公園等の利用及び休養のための宿泊施設で全国に37カ所あり、環境省が管轄している
■うさぎを全面に押し出した情報発信!
海外で知られるようになったきっかけは、2014年に海外のユーチューバーがこの島のうさぎの様子を投稿したことだ。海外の新聞も取り上げるなど後追いで関心が高まり、大ブレイクとなった。
島へ渡った外国人観光客は、2013年に378人、2014年に5,564人、2015年に17,215人と2014年を境に急速に伸びていることが分かる。特に中国、台湾、香港、韓国のアジア圏からの観光客が多いが、欧米系も少なくないと市の担当者は言う。
うさぎの島としての海外の認知度が高まってきたことから、2015年以降、竹原市としても外国人への情報発信に力を入れるようになった。例えば、観光の多言語サイトを立ち上げ、うさぎに関する情報やうさぎの接し方の注意点などを明記した。サイトには「戦前のネガティブな歴史を含め、この島を紹介するようにしている」と市の担当者は言う。また、2017年の3月から竹原市の観光パンフレットにはうさぎをメインビジュアルに加えることにした。
島のレストランでも、新しく進めた取り組みもある。
昼食に多く利用されるレストランは、タコや魚料理がメインであったものを、海外の方のニーズにあわせて新たに肉料理をメニュ-に追加するようにしたそうだ。
さらに広島県の観光サイトでも大久野島のうさぎの情報を掲載するなど、市だけでなく県としてもバックアップをするようになった。
■古民家が並ぶ町並み保存地区への外国人観光客の流入を目指す
一方、竹原市には重要伝統的建造物群保存地区があり、こちらにも立ち寄ってもらいたいと市では考えている。
地区内の小道に沿う建物は、二階建て、本を開いて伏せたような形の切妻造(きりづまづくり)の屋根に、瓦葺の漆喰で防火用に塗った塗屋造り(ぬりやづくり)の町家で、大半が江戸時代中期(17世紀後半~18世紀前半)から明治時代に建てられている。塩業を基盤として発展し、質の高い町家が連続していて、趣のある石畳を散策するとエキゾチックな雰囲気に浸れる。
昔ながらの造り酒屋も3軒あり、その一つは、NHKの朝の連続ドラマ「マッサン」の生家の舞台としても知られている。
市の担当者によると、この地区には、外国人観光客は多くは寄らないという。大久野島へはJR呉線の忠海(ただのうみ)駅近くの忠海港から船で訪れるが、ほとんどの外国人はJR乗り放題パスを使い、広島市内からの日帰り、または関西圏から広島への移動途中に島を訪れるため、重要伝統的建造物群保存地区がある竹原駅を下車しないのだ。
そこで竹原市では、大久野島と重要伝統的建造物群保存地区の観光をセットにしたモニターツアーを外国人を対象に2016年1月と2017年2月の2回実施した。
1回目は広島県内の留学生を招き、2回目は観光関連の従事者やクリエイター等、幅広く在日外国人を招いた。
外国人たちのコメントとして、大久野島については「楽しい」、「可愛らしい」、「また行ってみたい」と好意的な声が多かった。
一方、重要伝統的建造物群保存地区については、町並みの景観は好意的な回答だったが、改善点へのコメントが多かった。例えば、「通りに面した建物が、店なのか民家なのかがわからない」、「要所に小さくても英語の看板があると安心だ」という意見があった。
「日本人なら、建物の持つ雰囲気で判断できる場合もあるが、外国人にはまったく見当もつかないのだろう。彼らには、やはり古民家の町並みを楽しむにはハードルが高く、ガイドさんをつけないと十分に魅力を伝えられないのではないだろうか」と市の担当者は言う。
一方で、重要伝統的建造物群保存地区の早急な観光地化へは、慎重なスタンスを生むようにもなっている。以前、ドラマ「マッサン」のブームでそのロケ地となった竹原市に日本人観光客が多く訪れたことで、その地区で暮らす住民のプライバシーが問題となったことがあった。好奇心旺盛な観光客の視線も気になる住民も少なくなかったのだ。また、ゆったりと閑静な古い町並みを歩けるのが魅力だったところ、混雑してくるとその魅力を失いかねないため、住民の生活と観光客の受入の両立について、地元でも議論されている。
うさぎの島はもちろん、古い町並みも合わせてどのような魅力づくりがなされるのか、今後に目が離せない。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/