和歌山県の山奥に宗教都市が存在する。高野山だ。緑深い山をあがっていくと、117もの寺院が立ち並ぶ姿は圧巻だろう。日本人観光客が横ばい状態のなか、外国人観光客が毎年増加している。世界遺産登録、ミシュランの格付けで三つ星を獲得、ナショナルジオグラフィック旅行雑誌での掲載など海外メディアでの露出が好影響を与えている。
<今回のポイント>
1:精神性の理解で、観光客の共感を呼んだ
2:街の環境美化など受け入れ体制(おもてなしの精神)が好循環になった
3:ガイドブックでの掲載が、外国人増加を加速させた
高野山は今年の平成27年が開山1200年の節目の年だ。大々的にプロモーションを行い、多くの参拝者や観光客を集めている。しかし、50年前の1150年大法会は、47万人だったのに対し、今年は、60万人という入込ではあった。だがそもそも、ここ数年の高野山を訪ねる日本人の参拝観光客は落ち込んでいる。代わって外国人観光客が増加の一途だ。いったい何が起きているのだろうか。
和歌山県の観光客動態調査によると、世界遺産登録後、それまで年間1万人前後だった外国人宿泊客数が平成19年に初めて3万人を超え、平成25年には5万人の大台に乗ったという。
内訳としては、1位がフランス人、2位がアメリカ人、3位がオーストラリア・ニュージーランド人と、圧倒的に欧米人に人気となっている。
高野山は、弘法大師によって開かれた真言密教の修行道場で、高野山真言宗の総本山でもある。標高約900メートルの山上に広がる盆地には、117もの寺院が立ち並び、その半数が宿坊を兼ねている。曼荼羅の思想に基づいて根本大塔、金堂などが配置されている。
かつて、ロンリープラネット(※1)の紹介は、足を延ばしていく場所として小さな囲み記事がある程度。それでも、好奇心旺盛な京都や奈良滞在の欧米人バックパッカーが訪ねてくるようになった。
(※1:欧米圏で圧倒的人気を誇るバックパッカー向けのガイドブック)
口コミで人気が高まり、その後、ミシュランガイドブックでは、「わざわざ訪れる価値のある場所」として3つ星を獲得。内訳として9つの評価があり、「印象深さ」という点で高く評価されたのだ。「浮世と全く違う時間が流れている。西洋人にとって神秘的」と紹介された。
昨今では、世界的な旅行雑誌「NATIONAL GEOGRAPHIC TRAVELER」によって、「2015年に訪れるべき場所 世界のベスト20」に、フランスのコルシカ島、モン・サン=ミシェルなどと並んで高野山が日本で唯一選出された。
それに伴って、外国人の割合も増加傾向だと、高野町観光事業推進協議会。
なぜ、これほど急速に評価があがっていったのか?
同協議会としては、プロモーションは和歌山県と一緒に国際旅行フェアに出展はしているものの、大きく予算をかけた訳ではない。
宗教という観点から高野山の精神性が欧米人に理解されてきたのではないかと、同協議会の植木教記氏。
人気のスポットが「奥の院」だ。開祖の弘法大師空海を祀っている。
この空気感に外国人旅行者が、感動するという。
特に夜、灯籠の灯りを頼りに、御廟に参拝にいく。夜の静けさに、言葉にはならない畏敬の念を抱く。口コミで夜の「奥の院」詣でが人気となっていった。
通常は、奥の院にある燈籠堂の中へは17時以降は入れない。建物の外を回周し大師御廟へ参拝する。
しかし毎月20日に開催される「お逮夜(たいや)ナイトウォーク」だけは、夜でも燈籠堂に入ることができ、そこでは僧侶による読経、法話を聞いた後に御廟をお参りするため、多くの外国人観光客が訪れる。
また、宿坊に泊まり、朝の勤行などを体験する。
ある宿坊では、毎朝6時から7時15分まで朝の勤行を行っていて、般若心経を一緒に唱える。護摩を焚く宿坊もある。
神秘的な体験だけではなく、それを解説する外国人僧侶の存在も大きい。
「YOKOSO! JAPAN大使」という観光大使に選ばれたスイス人のクルト・キュブリさんがいる。高野山に入山したのは約10年前。それまでも何度も高野山を訪れ、僧にまでなった。
外国人旅行者や欧米のメディア、旅行会社にフランス語、ドイツ語、英語などで高野山の曼荼羅(まんだら)や仏像、ふすま絵などを解説し、その魅力を紹介。また、ヨーロッパの観光セミナーで高野山を紹介するなど、認知度アップに貢献している。
現在は、さらに増え、12か国の僧侶がいるのだ。彼らの言葉を通じて高野山の魅力が伝わっている。
一方、受け入れ体制の充実もある。
52ある宿坊(宿泊施設を備えた寺)のうち、英語が通じる宿坊は約10か所に増えた。
街には清潔感が漂う。それは清掃車が常にパトロールして、きれいにしているからだ。目に見えないおもてなしだ。
また和歌山県の補助金を活用し、公衆トイレが最新の温水洗浄機付きが導入されている。外観も寺院のお堂と見間違うほどの建物となっている。
宿坊に泊まることが、高野山の歴史・文化に触れると共に日本文化体験そのものになっている。畳の部屋、美しい襖絵、歴史を感じる調度品。精進料理によるもてなし。どれもホテルでは経験できない。
通常は1泊で帰るそうだ。一方、アジアからの観光客は、宿泊せずにお寺見学だけの場合が多い。やはり宿泊してこそ、その精神性に触れられる。
アジアの国々も今後はニーズが高まる可能性があり、高野山の魅力と宿坊に泊まれることをもっとアピールしていく必要があると植木氏。
アジアの国々を中心に訪日数が伸びている中、グローバルな展開が課題となってくる。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/