金沢の観光資源は、江戸時代から受け継ぐ金沢の伝統文化そのもの。金沢市民も共通の意識として持っている。ユネスコのクラフト創造都市に認定されたことを契機に具体的な取り組みが始まっている。北陸新幹線の開通で、外国人旅行客も取り込みたいと意欲的だ。

ユネスコの創造都市ネットワーク世界会議
ユネスコの創造都市ネットワーク世界会議

<今回のポイント>
1:地元の伝統文化への誇りを観光に活かす
2:ユネスコのクラフト創造都市を契機にする
3:北陸新幹線の開通をチャンスととらえた動き

平成27年3月14日に北陸新幹線が開通した。東京と金沢間がわずか2時間28分で結ばれ、今後は首都圏からの多くの外国人旅行者の取り込みが期待できる。

金沢駅も装いを新たにした。伝統産業に携わる多数の方々の協力を得て、30品目を超える工芸品が駅を彩っている。

この金沢駅が象徴するように、金沢市内は加賀百万石の伝統文化が息づいている。観光コンテンツもクラフトをテーマにした開発が進んでいるのだ。

金沢は、江戸・明治・大正・昭和・平成と受け継がれた歴史的な街並だ。その一角には数多くの職人工房や工芸品を扱う店舗が集積。文化的香りの高い独自の都市を形成した。
伝統芸能や多彩な食文化が今も市民生活の中に息づいている。石川県内には多くの人間国宝がいるのも大きな特徴だろう。

平成27年5月には、27カ国61都市の市長ら約150人が出席し、ユネスコの創造都市ネットワーク世界会議が金沢市で開催されている。歓迎レセプションは金沢城公園で行われ、工芸展見学や能楽鑑賞、料亭での招宴を通じ、金沢が誇る文化の粋を世界に紹介した。

金沢市は、その6年前の平成21年6月に、ユネスコ創造都市ネットワークのクラフト分野で認定され、世界的なクラフトシティとなっていた。
当時「創造都市推進プログラム」を設け、文化のビジネス化、人材の育成、世界への発信というそれぞれの観点から3つの将来像を掲げて事業を展開している。

その一つ、「ビジネス化」を目的とする「金沢クラフトビジネス創造機構」もこの時期に金沢市の外郭団体として設立され、平成26年5月には、一般社団法人化している。

役割としては、若手クリエーターに専門的な助言、指導を行い、「ものづくり力の強化」につなげる。
クラフトのビジネス化に関し、問題意識を持っている事業者や新たな事業展開などを試みる意欲の高い人びとが集う「多様な交流の場」をつくる。
また、課題解決や創造的アイディアの創出に向けて、事業者やバイヤー、デザイナーなどの多彩なネットワークの形成を支援する。

金沢市全体をギャラリーとみなし、市内各所で金沢の魅力である「工芸」に触れる機会の創出にも尽力している。
市内における滞在の満足度を高めることを目的に、市内で創作活動を行う工芸作家・職人及びその工房やギャラリーのデータベース化を進め、マップも作成している。
「観光」と「クラフト」が融合する素地が築きあげられた。

「金沢クラフト・ツーリズム」というネーミングが打ち出されたのも、ユネスコの創造都市に認定された平成21年の頃だった。

「金沢クラフト・ツーリズム」とは、ものづくり文化が発達した城下町・金沢において、伝統工芸や文化にふれる旅のことを指している。

市の観光交流課と観光協会がタッグを組んで、着地型ツアーを造成し、企画開発を進めた。工芸だけではなく、歴史、伝統芸能、食文化を含み、盛りだくさんの内容で、貴重な体験もできる。

やはり商品開発にはクラフトのデータベースが役立ったそうだ。

まずは日本人向けにスタートした。大きく2つのプログラムからなる。

1つは、「体感!金沢の旅」という体験型特別観光プログラム。
金沢の独自の文化を実際に五感で堪能できる。
例えば、老舗料亭巡りでは、加賀料理の味を楽しみつつ、背景にある食文化の解説、さらに料亭建築の鑑賞もできる。
また抹茶体験では、加賀友禅の技法を用いた菓子受けづくりに挑戦し、さらに自分でつくった和菓子を楽しむ。
このように金沢の文化をじっくり堪能する企画が詰まっているのだ。

立ち上げ当初は1年間に工芸体験の2つのプログラムからスタートした。

そしてもう1つは、より本物志向のプログラム。
金沢に受け継がれた伝統工芸を中心に、歴史や伝統文化を組み合わせた「特別感」「本物志向」「上質な旅」のプランを提案している。富裕層向けのツアー企画として、作家の工房を訪ね、直接交流したり、各種体験や非公開の作品鑑賞をしたりと、普段の観光では得られない「特別感」のある演出をコーディネートしている。

地元の専門家の方々が協力的だったのが、大きく前進させた要因だったと観光交流課の担当者。金沢の伝統文化そのものが、観光につながるのだ。

金沢へ来る外国人は、数値データでは、東京〜大阪ルートほど、多くはなかったが、日本の本物の文化に触れたいという外国人の声も高まってきた。

これに加え、北陸新幹線の開通を控え、インバウンドも視野に入ってきたという。

平成24年には英語の金沢クラフト・ツーリズムのウェブサイトを立ち上げ、外国語のパンフレットも制作。英語、フランス語、中国語(繁体字・簡体字)の4種類だった。
国に応じて内容を変えているのが特徴だ。英語とフランス語は、掘り下げた文章内容になっていて、情報を読ませるタイプ。中国語は、ビジュアルを全面に出して、雰囲気が伝わるように編集した。

最近では、海外メディアの取材や旅行会社のファムツアー(※現地旅行会社の担当者による視察旅行)も増えたと、金沢市の観光交流課。
ファムツアーでは、金箔工芸の体験や能楽の体験をしてもう。実際に能面を顔に被せて、中からの視界を体験する。
知識だけではなく、実際に感じてもらえたことで、情報も深くなる。

市役所内の工芸の部署は観光交流課とは別となるが、伝統文化の金沢の魅力発信という点では一致している。クラフトを軸に横断的に情報交換を進めているのだ。

北陸新幹線の開業とJRパスを利用して新幹線で金沢へ来る外国人旅行者が増えている。今後は、伝統の良さを体験して、さらに工芸品の購入へつながる仕組みものぞまれる。

金沢駅の鼓門とおもてなしドーム
金沢駅の鼓門とおもてなしドーム
『金沢・クラフト広坂』では工芸品を購入できる
『金沢・クラフト広坂』では工芸品を購入できる
金箔体験で箔移しをする
金箔体験で箔移しをする

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/