和歌山県田辺市に廃校の木造校舎を活用した交流施設があり、地元の農家と都市部の人々、さらには外国人も交流を楽しんでいる。収益をしっかりと上げているこの施設ができるきっかけは、長年の地域づくりがベースにあった。関係者に設立の経緯をうかがった。
ポイント:
・地元団体の尽力により、廃校が新たな交流施設として甦った
・グリーンツーリズムや熊野古道への参拝拠点として、存在感を発揮する
■地域住民が集い、旅行者が交流を楽しむ
和歌山県田辺市に小学校の旧校舎を活用した観光誘致の取り組みがある。市街地から離れた里山・秋津野の集落にある「秋津野ガルテン」という施設だ。旧小学校の木造校舎はリニューアルされ、都市と農村の出会い・交流を楽しむ拠点となっている。そこに外国人観光客も訪れて地域住民との交流を楽しんでいる。
秋津野ガルテンの「ガルテン」とはドイツ語で「庭」を意味する。この施設は、単なる観光や地域振興のみならず、地域住民も集える地域の「庭」としての役割も担うことがコンセプトだ。地域づくりが盛んなエリアであったからこそ、このようなコンセプトのもとで施設を作ることが可能となった。
秋津野ガルテンがある田辺市上秋津は、明治22年の大水害で壊滅的な被害を受け、その後数十年をかけて住民が力を合わせて復興してきたという歴史がある地域だ。その協調精神から、1957年(昭和32年)の6村合併を機に、村にあった財産(ほとんどが山)を運用し将来の地域の発展のために役立てようとする、社団法人上秋津愛郷会(かみあきづあいごうかい ※現在は公益社団法人へ変更)という和歌山県で初めての地域づくり組織ができた。
■地域の団結力に共感して多くの出資が集まる!
愛郷会は「得られた収益は、地域全体の公益のためだけに使う」ものとして、教育の振興や住民福祉、環境保全等の活動に対して財政支援を行っている。つまりは行政に頼りきりにならず、自分たちの知恵で地域振興するというものだ。また、1972年(昭和47年)のみかんの価格の大暴落を期に、農業に関しても多品目の柑橘の周年収穫体制の確立や農道の整備、集落の排水事業など、地元の皆が参画し皆で行う全員参加のむらづくりを行ってきた。
こういった背景の中、1994年(平成6年)に地域づくり団体の「秋津野塾」が結成され、新旧住民が幅広い合意形成を図りながらより活発な村づくりへ取り組むこととなった。
交流事業も盛んで、生産農家と住民との交流イベントが実施されている。
この地域ではすでに、2000年の時点で秋津野の10年先を見通したマスタープラン(計画書)づくりを実施していた。小学校の移転が決まる前には、行政が木造の旧校舎を壊して更地化し宅地開発をするという話もあったそうだが、それよりも前に秋津野塾がこの場所を保存していくプランを策定していたため、最終的に校舎を有効的に活用することとなった。
2007年に土地と建物を愛郷会が買い上げ、木造校舎のリノベーションや宿泊施設の建設に対しては、農林水産省の農山漁村活性化プロジェクト支援交付金のほか、県と市の独自の補助金等を活用した。あわせて、地元を中心に298名の出資者から3,330万円を集め、2007年6月に農業法人を設立した。その3か月後にさらに増資を行い、最終的には489名、4,180万円の出資金で運営を担う法人となり、2008年に11月に秋津野ガルテンがオープンした。「都市と農村をつなぐ“場所”とすることを目指した」と、秋津野ガルテン代表の玉井氏は言う。
■外国人利用が増え、地元農家との交流の場になった!
秋津野ガルテン内には、校庭内に地元のお母さん方がつくるスローフードバイキング料理を提供する農家レストランや全7室の宿泊施設「『農』のある宿舎」があり、旧木造校舎はお菓子体験工房や体験棟となっていて、地域のみかん作りの歴史を紐解いたみかん資料館などの施設もある。
秋津野ガルテンの年間利用者数は約6万人に達し、「『農』のある宿舎」は、今では年間約2,800人が宿泊している。なかでも外国人旅行客の利用はここ数年で急速に伸びており、2015年度に約200人だった外国人の宿泊者数は、2016年度には約500人を超えるほどとなった。ところが2017年は施設の利用者は伸びたものの、宿泊利用者数は減って近隣の宿から通うように変わってきたそうだ。そこで玉井氏は今後、熊野古道の入り口を訴求ポイントに据え、外国人宿泊客の取り込みを伸ばしていきたいと考えている。
玉井氏の分析によると、外国人旅行者は大きく3つのタイプに分けられると言う。
1つ目は、教育旅行だ。
近隣農家14戸と協力する民泊プランがあり、約2時間の農業体験付きで、2016年はマレーシア、2017年はオーストラリアからの修学旅行生を受け入れた。宿泊先では受け入れ農家の方々と学生が一緒に夕食づくりをするそうだ。
プログラムは2泊3日のコースになっていて、みかんの収穫体験、さらに袋詰めもある。田辺市は日本一みかんの種類が多い産地だと玉井氏は言う。
学生からの様々な質問を受けることで、農家自身も「気づき」が生まれ、農業に対するアプローチも広がると好評だ。
2つ目が、地域づくりを目的とした研修・視察だ。
韓国を中心に地域づくり視察研修の受け入れを実施している。以前には長期にアグリワーキングホリデーで梅の剪定やミカンの収穫体験、柑橘加工体験、農家レストラン研修を実施したこともある。加工研修によって、六次産業を目の当たりにできる。
3つ目が、熊野古道参詣道への拠点としての受け入れだ。
(一社)田辺市熊野ツーリズムビューローとも連携し、誘客をサポートしてもらっている。ここで秋津野ガルテンは一般の外国人旅行者の受け入れ増加を図るため、熊野早駈道(くまのはやがけみち)を紹介している。
熊野早駈道とは、田辺市の秋津野ガルテン界隈から同市長野の捻木の杉(ねじきのすぎ)まで、上秋津〜長野〜潮見峠の里山の風景を色濃く残す約10kmの道程のことだ。起伏に富んだ里道は田辺から熊野への近道となっており、田辺市熊野ツーリズムビューローでは、時間がない人にはここを起点にすることを勧めている。
秋津野ガルテンは、周辺地域と連携し熊野古道を目当てとした外国人観光客へのアプローチも強化し、宿泊料収入等でしっかり稼ぐことも忘れてはいない。これこそが、持続可能なプロジェクトなのだろう。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/