日本の伝統的遊びもインバウンドではキラーコンテンツになりうる。その一つがかるただ。かるたは、世界でもオリジナリティが高い遊びで、最近ではスピードを競う「競技かるた」も注目を浴びている。競技かるたを扱ったアニメが海外でも放映され、興味を持つ外国人が増加中だ。さらに、その聖地となった近江神宮を訪ねてくるという。その背景を追った。
ポイント:
・海外で、かるたがテーマのアニメや漫画の影響が大きい
・かるたの海外での普及活動で関心が高まる
・着物を体験できるサービスが始まるなど、今後の展開に期待
■海外でかるたが人気? アニメ「ちはやふる」がきっかけに
日本人なら誰でも体験したことのあるかるたが、海外でも静かなブームとなっている。人気の火付け役は、競技かるたを題材としたアニメ「ちはやふる」だ。2011年にアニメの放映が日本で開始されてから、50以上の国と地域で配信されている。
競技かるたは、詠まれた歌の上の句に対応する下の句が書かれた字札を、相手より先に払い飛ばす瞬発力と集中力が必要な競技で、ハイレベルな戦いになるとゼロコンマ数秒の差で勝敗を決することもあり、非常に緊迫感がある。
原作は末次由紀による少女漫画で、主人公の高校生・綾瀬千早が競技かるた日本一のクイーンを目指す、というストーリーを中心に数々のドラマが展開され、躍動感のある競技かるたの描写とともに人気を博している。2007年12月に講談社『BE・LOVE』への連載がスタートした原作漫画も、2009年以降、台湾やタイ、フランスなどで翻訳され、国際的に親しまれている。
かるた好きの外国人が日本に来て向かう場所は、滋賀県大津市の近江神宮だという。「ちはやふる」の物語の中でも大会会場として描かれており、訪れたいと思うファンが多いようだ。
近江神宮は、祭神として飛鳥宮よりこの地に遷都した第38代天智天皇を祀っており、その天智天皇が詠んだ「秋の田の かりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ」という歌が、百人一首の第一番として選出されているという縁から、かるたの殿堂とも言われ、親しまれている。
毎年お正月に行われる「かるた開きの儀(※1)」を皮切りに、競技かるたの全国大会である「高松宮記念杯」や、「かるた名人位・クイーン位決定戦」、毎年7月に高校生を対象に行われる「全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会(通称:かるた甲子園)」など多くの競技かるた大会が開催される場所としても有名だ。
(※1)かるた開きの儀:天智天皇が詠まれた句を読師が神前で朗誦し、采女装束を着用した4名の取姫がかるたを取る。
■近江神宮はかるたの聖地として、高校生からも人気のスポット
かるた甲子園は、「ちはやふる」の人気の高まりとともに出場者も増えており、今年(2017年)のエントリー数は団体・個人戦ともに過去最多を更新した。39回目となる今年の大会は、地方大会を勝ち抜いた56校に加え、海外から米国ボストンの日本語補習校(※2)も参加した。個人戦はこれまでで最多の1,650人がエントリーしている。
(※2)日本語補習校:アメリカ在住の日本人や日系人の子弟が地元の小中高校とは別に日本語を学ぶために土曜日に通う学校。
ボストンには、2011年9月に「なかまろ会」というかるたの同好会が設立されている。在米日本人とその子どもたちを中心に、5歳から50歳代の日系のハーフ、クウォーター、及び現地の白人層や中華系など様々な背景を持ったメンバーがおり、なかには日本語がまったく分からないメンバーもいるが、互いに日本文化を愛する仲間として活動している。全員がボストンでかるたを始め、インターネットや日本の知人に教えてもらった情報をもとに練習している。
■かるたは日本文化体験の入口になっている
海外数カ国でかるたサークルを立ち上げ、レクチャーや競技実演による普及活動を続けているストーン睦美さん(アメリカ在住)によると、海外各地のかるたサークルで、日本語が分からなくても、かるたに興味を持つ人が増えたのには、「ちはやふる」のアニメの影響が大きいとのことだ。
現在、中国、台湾、韓国、タイ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ハンガリー、ベルギー、アメリカ、ブラジルなどにかるたのサークルがある。ストーンさんによると、日本語のわからない外国人は、文字をデザインとしてとらえ、音と関連づけて記憶することもあるそうだ。
さて、近江神宮では、近年の「ちはやふる」のブームもあって競技かるたの試合で着用するはかま衣装のレンタル(1時間500円)が、若い女性に人気を呼んでいる。外国人の利用も珍しくないという。
さらに従来の体験レンタルに加えて、近江神宮衣裳部では、びわ湖大津観光協会との共同企画により模擬十二単(じゅうにひとえ)の着用体験「かるたなりきり体験」を2017年より開始した。八重畳の上で金屏風・几帳の前で模擬十二単の姿になり、かるたの気分に浸ろうというものだ。
かるたアニメの海外人気、海外でのかるた愛好者の拡がり、そしてかるたの聖地。それが一本の糸でつながり、大津に訪れる外国人が増えている。
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取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/
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