永平寺は、道元ゆかりのお寺だ。国内有数の禅寺といえども、参拝者数の激減に陥っている。永平寺町では、門前地区など地域が主体となって、魅力の再生がスタートした。「ZEN」を中心にしたブランディングに取り組む。
ポイント:
・永平寺と町、県、そして森ビルが組んで江戸時代の古地図のような街並み再生を目指す
・禅文化は外国人からの関心も高く、町づくりの中心に据える
■観光客数の減少が続く福井県の永平寺町
永平寺とは、1244年に道元が越前の土豪波多野義重の援助によって曹洞宗のお寺として創建したものだ。現在でも僧侶の修行の場として,常に200余名の修行僧が、日夜修行に励んでいる。
境内は、約10万坪の広さをもち、樹齢700年といわれる鬱蒼とした老杉に囲まれた静寂なたたずまいであり、七堂伽藍を中心とした大小70余棟の殿堂楼閣が建ち並んでいる。
この永平寺は、日本史で習うほど由緒ある有名な禅寺だ。しかし、ここ最近は、永平寺観光の減少に歯止めがかからず、地元では頭を悩ませている。
参拝者数が、1989年の141万人をピークに、2014年は3分の1の47万人まで減少しているのだ。
■様々な主体が携わり、永平寺町の賑わい復興を目指す!
2011年、打開に向けて、門前地区が中心になって新しい組織が立ち上がった。
それが地域主体の「禅の里」まちづくり実行委員会だ。
これは、永平寺、門前地区、永平寺町および地域住民が座組みに加わり、永平寺の賑わい復活を目指すというものだ。
2011年9月に開催された第1回目の実行委員会では、参拝客回復に向けて、課題およびその解決策が論じられた。
門前地区からは、多くの前向きな意見が出された。
例えば、
・今までは、永平寺の魅力で人が集まっていたが、今後は店の魅力でも賑わいを出していくことが重要であること。
・自分たちも変わっていかなければならない。
・外からのテナントの誘致も必要だ。
・観光地という土地柄に甘えていた。
といったようなもので、変革に向けた覚悟が意見として多かったという。
このように会合を重ね、出された答えは、永平寺および近隣が一体となった景観再生を進めることだ。
というのも、ちょうどその頃、お寺では、1600年代の古地図が発見されたからだ。当時の永平寺の境内や門前地区の雰囲気がわかるもので、これをモデルにして、原点回帰を目指すことで一致した。単なるお寺の復興事業としてだけでなく、その場に立つだけで、何かを感じられる魅力的な町づくりを見据えている。
そのような地域からの発案に県が加わり、景観再生が具体的に進むことになった。
■永平寺門前再構築プロジェクト
そして、2012年、永平寺門前再構築プロジェクトが立ち上がった。役割を分担し、境内・宿泊施設をお寺、参道を町、川を県が担当することになった。
禅寺の雰囲気を手軽に楽しめる宿泊施設をメーンに、旧参道の再生と旧参道沿いを流れる永平寺川の改修などを、総事業費22億7千万をかけて、2019年秋までに一体的に行う予定だ。
そのうち、現在整備を進めている新しい宿泊施設のコンセプトは、福井県からの要請があり、外国人対応を含め、一般の旅行者が泊まることができるスタイルを想定している。まだプランの段階だが、旅館と境内にある大部屋スタイルの宿坊(※)の中間的な施設を目指し、座禅や精進料理といった禅寺ならではの体験もしてもらうものだ。
※:宿坊とは、僧侶や参拝者が泊まることのできる寺院内の宿泊施設のこと。
また、新しく観光案内所を参道に作る予定だ。地元の永平寺町のことはもちろん、福井県の他のエリアも紹介できるようにしたいという。外国人はピンポイントで来るのではなく、周遊型の観光であるため、他のエリアを紹介するのが大事だと考えているそうだ。
くわえて、2012年から「禅の里」事業実現に向け、総合コンサルティングを行っていた森ビルが、2015年6月、永平寺門前再構築プロジェクトに参画し、永平寺町とまちづくり基本協定を結んだ。具体的には、永平寺一帯の再建に向けて、森ビルは実際の企画、設計、施工管理をまかなうことになっている。
■「ZEN」をテーマにしたブランド戦略へ
現在進めているまちづくりの特徴は、行政が主体ではなく、地域住民が主体となるように進めていることだと、永平寺町の商工観光課の担当者は語る。
いずれも町内で伝統産業等を担っている人々が、まちづくりの骨子案や再生計画を議論しているのだ。
その議論の中で、さらに出てきた意見として、「ZEN」をテーマにしたブランド戦略がある。お寺や門前の景観だけではなく、精進料理や伝統的な調度品など、取り巻く文化も組み入れようという考え方だ。
そこから「ブランド戦略推進委員会」という物・食・人を中心に据えたプロジェクトへと発展した。
その具体例の1つとして、2015年のミラノ展示会に福井県が出展した際に、永平寺町の特産品も持って行った。胡麻豆腐や味噌が好評だったそうだ。また、座禅体験もできるスペースを設け、実際に永平寺のお坊さんが出張して、多くのイタリア人が会場で参加した。
「ZEN」は世界に誇れるコンテンツだと、永平寺町商工観光課の担当者は現地で手ごたえを感じたという。今後は、インバウンドはもちろん、禅に通じる商品開発にも結びつけたいと、抱負を語った。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/