ほとんどの中国人は、青森県を知らない。知らなければ当然、来てもらえない。そこで立ち上がったのが大連出身の女の子。モンちゃんだ。飾らないスタンスで田舎の魅力を動画で配信。
<今回のポイント>
1:外国人目線で地域を紹介していく
2:動画という新しいツールで中国で知名度向上を果たす
中国からの訪日観光が盛り上がるなか、青森県は知名度が低いのが課題だった。
青森県では、中国インバウンドにおいて、まずは自身の知名度の向上から取りかかることを始めた。いくら魅力的な観光コンテンツが充実していても、知られていなければ、何も始まらない。
そこで、中国の大連市民向けのラジオ番組を作ることになった。
青森県と大連市は2004年に「友好経済交流委員会協定」を締結し、相互チャーター便を使った商談会などの経済交流を盛んに行っている縁があったからだ。
青森県として今回のプロジェクトは、コンテンツを作成し、新世代の情報ツールを用いて地域の魅力を積極的にPRすること、中国人インバウンドの推進、中国との県産品取引の促進など、地域経済の活性化を図ることが目的だ。
こうして2011年春に県の委託事業としてFM青森が番組制作をスタートした。
スタッフは、3人が選ばれた。
大連出身で2年間青森市の青森中央学院大学で学んだ青森大好きっ子の「モンちゃん」こと金夢さん。上海で映像制作会社勤務経験が約11年ある地元青森出身の葛西清重さん。そして葛西さんの地元の旧友、工藤浩治さん。FM青森の契約社員として1年間勤務した。
はじめは音声のみの予定だった。しかし上海のネット事情を知る葛西さんは、今の時代はネット動画が良いと提案。メンバーによる会議の結果、「ヨークー(优酷)」という「You Tube」と同じような動画サービスがあり、ここに投稿することが効果的だと判断した。
中国では、FacebookやYou Tube、Googleの使用はできないため、類似のサービスがあるのだ。
こうして、青森観光物産情報動画サイト「一路青森!お助け!?モンちゃん!!」(中国向け)が2011年春にスタート。
モンちゃんが体当たりリポートして県内の観光名所や飲食店、娯楽施設などを紹介する内容だ。
青森特産の「リンゴ」や「ニンニク」など、地元のキラーコンテンツを紹介した。
しかし最初は鳴かず飛ばずだったと葛西さん。
ところが、「日本のインターネットカフェどうなってるの?」篇がブレークのきっかけとなった。
なんと800万ビューを超えたのだ。 さらに日本全国県別の中国版ツイッター「ウェイボー(微博)」で、フォロワー数が中国で大人気の北海道を抜いてしまうほどの躍進ぶりとなった。
そのモンちゃんがインターネットカフェを体験した回では、個室にテレビや空気清浄器などが配備され、ドリンクも飲み放題など、いたれりつくせりの対応が「日本ならではのサービスだ」と関心を集めたという。
これを境に、バックナンバーの「リンゴ」や「ニンニク」を紹介する動画のアクセス数が伸びていったのだ。
これまで、インバウンドをアピールするコンテンツは、どちらかをいうと日本視点のものが多かった。中国人目線からいうと要らないものが多い。また「売りたい」が強過ぎて、「行きたい」という気持ちにつながりにくかった。
日本の地方によって、中国のテレビ局とコラボして作成している映像コンテンツもあるが、スターを起用するなどすると、どうしても庶民レベルとかけ離れてしまう。
そんな状況を打開した「モンちゃん」の体験レポート。
モンちゃんは、田子町でニンニクを豪快に丸かじりして「とっても歯ごたえが良い」と絶賛すれば、朝市では、筋子を試食して「しょっぱい」と表情をゆがめることも。モンちゃんの飾らない“本音トーク”が視聴者の心をつかんだ。
日本のリアルなライフスタイルなど、中国で関心を集めそうなコンテンツとなっている。
番組の視聴者からは、「中国人と知っているのに日本人が優しく接するのに感銘を受けた」という意見など、日本に好意的な意見が多数寄せられている。
視聴者の内訳は以下の通りだ。
性別:男性が65%、女性が35%
年齢層:~21歳が25% 22~29歳が50% 30~39歳が20%
最終学歴:大学/修士以上55% 高校生以下25% 専門学校20%
職業:サラリーマン40% 公務員30% 学生20%
都市別:1位 北京 2位 深圳 3位 上海 4位 蘇州
第1歩としては、まずは知ってもらうことが大切だ。このなかから、青森県に行く人が出て来る可能性は十分にある。
葛西さんは、
この番組は、中国の富裕層に向けての地方へのインバウンドを促進する目的の他に、「青森の田舎には美しい自然があり、美味しいものがあり、優しい人が暮らしている。自然を大切にし、自分の地元を愛しましょう。」 という裏のテーマがあるという。中国にも素朴な田舎好きの人が多くいるのだ。
モンちゃんは今、青森を卒業して、映像制作会社「中華企画」として日本全国を旅し、各地で出会う人々と交流を楽しみながら、ありのままの日本の良さを伝えている。青森の手法を他のエリアに展開中だ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/