今では農業体験をプログラムにした学習旅行は全国に多い。しかし、仙北市の取り組みは40年以上続く実績があり、誘致を海外の学校向けにも拡大した。それを押し進める秘訣は、農家と行政との役割分担があり、相互の信頼関係にあった。

台北での旅行商談会で農家民泊をアピール
台北での旅行商談会で農家民泊をアピール

今回のポイント

1:国内で培ってきた修学旅行生の受け入れが自信につながる
2:行政と農家の役割分担が明確

仙北市は、田沢湖や角館の武家屋敷など東北有数の観光資源を抱える。
国内向けに、1970年代から農業を体験する学習旅行誘致に力を入れ始めた。2013年度は国内の138校、約1万4000人が訪れるまでになった。また近年は、農家民泊もプログラムに加わり、現在では市内で営業する農家民宿は30軒となった。

しかし、学習旅行にも課題があった。
受け入れ時期が、5、6月に集中していることだ。
年間の学校行事の都合で、修学旅行に出られるのは、どこも同じ時期になってしまう。

そこで、仙北市が打ち出したのは、海外へ門戸を開くことだった。
ターゲットは、台湾。
当時、仙北市の農家民泊は、すでに日本全国に知られるようになっていた。これ以上の国内の修学旅行の市場規模拡大は困難であると知っていたからだ。

台湾をターゲットにした理由は、同市内にある田沢湖が、台湾の高雄市にある澄清湖と姉妹提携関係にあり、また市内の玉川温泉が台湾の北投温泉とも提携している。そのような縁で、台湾に決まった。

2012年度新規事業として、仙北市農山村体験デザイン室(※農家民泊等の学習旅行のワンストップ窓口)は、
「歓迎再来!台湾からの修学旅行誘致促進事業」というネーミングで
台湾から仙北市の農山村体験や文化体験、自然体験などをメインとした修学旅行誘致に乗り出した。

同年6月には、秋田県観光振興課の協力の下、訪日修学旅行誘致セミナーで訪台し台北・台中・高雄の3箇所で誘致活動を行った。

結果、同年11月に、台北市立士林高級商業職業学校の24名が、修学旅行で仙北市を訪れた。農家民宿、学校間交流、武家屋敷散策などを組み込んだ市内2泊3日の行程だ。

事前に、農家への説明会を実施し、外国人受け入れのパンフレットを配布したところ、農家の奥様たちは、これまでの自信から来るワクワク感と、初めての受け入れに対するドキドキ感が交差する想いだったと言う。
しかし、これまで日本人学生へ対応した経験が自信となり、身振り手振りで何とかなったという。

お互いの言葉が分からなくても、筆談や英語、スマホで翻訳してみたり・・いろいろと工夫しながらコミュニケーションを試みた。台湾の学生たちは、日本の文化に興味があり、カタコトながら、アイドルグループの「嵐」の話題で盛り上がった。

地元の角館高校を訪ね、一緒に英語の授業を受け、料理実習で「きりたんぽ」を作り、高校生による伝統芸能「飾山囃子」の実演など、文化交流を楽しんだ。

農家を去る別れ際には、お互い涙ぐむ場面もあり日本人の受け入れとなんら変わらない交流が可能なことを知り、受け入れを今後も積極的にしていくことになった。

台湾から訪れた生徒数は、2012年度は171人、13年度は83人だった。
さらに、14年度は台湾のほかアジア5カ国・地域から300人に上った。

14年が、なぜ急激に増えたのかについては理由がある。
ムスリムの受け入れが始まったのだ。

外務省が「ジェネシス2.0」という青年交流事業を立ち上げ、仙北市でもインドネシアや東ティムールからの受け入れが検討された。それには、イスラム対応が必要になった。

農家からの要望もあり、ハラルについて学ぶセミナーが実施された。

農家がハラルを学ぶニュース映像が全国に流れた。(注:上記の方々の受入は行ったものの結果的にイスラム教の方は含まれていなかった)
その結果、インドネシアの大学生100人を受け入れて欲しいという問い合わせがあったのだ。一般財団法人日本国際協力センター(JICE・ジャイス)からの依頼で、インドネシア大学生100人を受け入れることになり、10月の10日、11日に宿泊した。7割がムスリムである。

これ以外でも、ミャンマーの学生が、農家民泊するなど、受け入れエリアが拡大している。

農家民泊では、日本の生活様式や農山村に暮らす人々への理解と交流が深まった。
そして武家屋敷の見学や角館のお祭りを直に見て日本の伝統・文化を実感した。

この成功には、役割分担の明確さがあったと、仙北市農村体験デザイン室の福田成洋氏。

農家は、基本は農作業が主体であり、民泊は副業となる。
農家には、宿泊の受け入れのみに専念してもらう。
一方、仙北市役所には、仙北市農村体験デザイン室があり、ここがコーディネイト役となり、プロモーションや受け入れ窓口、また農家からの相談も受け付けている。

デザイン室は国内外をキャラバンしてまわり、台湾では学校を個別にまわった。
仙北市の農家民泊の魅力を上手に伝えたのだった。また情報発信も担っており、ブログやフェイブックで最新の情報をアップしている。
極力、農家の負担を減らすことを心がけているそうだ。

農家との良い関係を長く続けることが、農家民泊プロジェクトを継続できた秘訣なのだろう。

インドネシアの大学生を100人受け入れた
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ハラル対応の受け入れセミナーで話を聞くおかみさんたち
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台湾からの初の受け入れで、きりたんぽ作りをした
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角館高校で伝統芸能を披露
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取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/