四国88カ所のお遍路をするために、欧米を中心に海外から訪れる人が増えている。聖地巡礼は、宗教の壁を越えるのだ。お遍路についての研究が活発化したのが最近のことで、2015年に愛媛大学に四国遍路・世界の巡礼研究センターが開設された。また外国人客の把握については遅れているが、徳島文理大学のカナダ人講師が、独自に調査をしている。その結果を踏まえ人気の秘密を探ってみたい。

霊山寺の仁王門。四国八十八箇所霊場の一番札所
霊山寺の仁王門。四国八十八箇所霊場の一番札所

ポイント:

・お遍路は、宗教・国籍に関係なく、歩いた人に感動をもたらす
・地元ではお遍路についてしっかり学びたいというニーズが高まっている

観光庁の認定する広域観光周遊ルートが、2015年に四国に誕生した。

「スピリチュアルな島 ~四国遍路~ Spiritual Island ~SHIKOKU HENRO~」というコース名だ。お遍路、お接待の心、1200年の歴史・史跡を活かし、 欧米等の海外からの誘客を積極的に図るというものだ。

広域観光周遊ルートとは、複数の都道府県に渡り、テーマ性・ストーリー性を持った一連の魅力ある観光地をネットワーク化し、海外へ積極的に発信する観光庁の認定事業だ。

「確実にお遍路する外国人が増えています。現在、多くの外国人はインターネットやメディアを通じて、四国遍路を知っているのです。」

そう答えるのは、徳島文理大学講師のデビット・モートン氏。四国の外国人遍路を研究するカナダ人だ。各地の施設の統計調査、実際に訪ねてきた外国人に聞き取り調査を行っている。

実際に遍路に挑戦したカナダ人のモートン氏
実際に遍路に挑戦したカナダ人のモートン氏

例えば、香川県さぬき市にある「前山おへんろ交流サロン(※1)」には、入場されたお遍路さんが記入する名簿帳があり、外国人の記入が、2007年は年間約70名だが、2012年ではその倍を超える150名、そして2015年には400名と急伸した。

※1 前山おへんろ交流サロン
お遍路さんが気軽に立ち寄り、いろいろな情報交換の場所になっている。サロン内にある「遍路資料展示室」では、江戸時代の紀行文や古地図、お遍路さんが残した納札や古い納経帳など、歴史を感じさせる貴重な資料を展示。

また館内には、自由にコメントを書けるノートがある。モートン氏が記入者99名を調べたところ、内訳は、フランスが21名と最も多く、米国15名、オーストラリア13名、ドイツ9名とつづくそうだ。

お遍路には、乗り物を利用する場合と、完全に徒歩の場合がある。後者の歩き遍路で、88カ所をまわりきると、「結願(けちがん)」となり、地元の「NPO法人 遍路とおもてなしネットワーク」から遍路大使の称号が与えられる。外国人も年々増加傾向で、2006年が34名だったところ、2015年は184名までに伸びた。

なぜ、外国人がお遍路に魅力を感じるのだろうか。

モートン氏が行った聞き取り調査によると、お遍路する理由について以下の答えが返ってきたという。
仏教や空海に関心があるため、日常生活からの脱出のため、お接待を経験するため、人と会うため、地元の文化を経験するため、両親の供養のため、人生の転換のためなど。

全般にスピリチュアルなテーマが多い。

以下、モートン氏の調査からお遍路をした外国人の感想を抜粋する。
※カッコ内は聞いた年代と名前

・四国遍路の一番重要な部分は霊場での経験だ。お接待の概念が素晴らしい。(2007年Jude)
・四国遍路の人々や世界中から来たお遍路と会うことが好きだった。皆さん、とても好意的で友好的だった。(2014年Gill)
・遍路コミュニティーがこれほど親密だとは思わなかった。(2015年Caroline)
・四国のような所は世界にない。人生で一番素晴らしい経験だった。ありがとう。心からありがとう。(2015年Joy)
・接待文化に感動した。(2015 年Elly)

お遍路の研究が愛媛大学で進められ、市民に還元されている。市民のお遍路への関わりのきっかけになることが期待される。

愛媛大学では、地域貢献を重視して、2000年に「『四国遍路と世界の巡礼』研究会」を結成した。歴史学、文学、哲学など多くの視点で、学術的に遍路を掘り下げていった。さらに世界の巡礼との国際比較なども研究。
毎年、研究会や論文発表などを行い、2015年に「四国遍路・世界の巡礼研究センター」という名称になった。

同センターが行う講演会では、毎回約150名の地元の一般の参加者が集まる人気ぶりだ。地元では、お遍路について漠然としたイメージしかなく、成り立ちやその歴史、巡礼の意味について意識してこなかった。普段、見慣れている光景だからこそ、興味がそそられるのだろう。

愛媛大学の四国遍路・世界の巡礼研究センター主催のシンポジウム
愛媛大学の四国遍路・世界の巡礼研究センター主催のシンポジウム

愛媛大学では、学生向けの取り組みとして、10年前から歩き遍路の体験授業を実施している。2日間で約40-50キロメートルを実際に歩くのだ。30人の参加枠に対して毎回100名の応募がある。学生は、県内出身者が多く、次に四国内の他県。生まれたときから、お遍路を目にするが、深く知らない。だから授業でしっかり学びたいのだろう。

このように、学術研究とともに、地元の市民さらに学生向けにお遍路を知ってもらう取り組みをしている。

愛媛大学の学生にお遍路の研修をする
愛媛大学の学生にお遍路の研修をする

また「お遍路について、外国人の受け入れの課題が残る。」と、モートン氏。実際にお遍路をした外国人の要望は、以下の通りだ。
*フリーWiFi設置*駅から霊場までの案内(標識)*洗濯機、乾燥機、アイロン等の使い方の英語表記 *交通量が多い道路やトンネルを避ける道の整備 *休憩所の椅子等の増設 *安価な宿泊施設の増加 *緊急の場合の連絡方法 *外国人向け霊場のパンフレットの作成

愛媛大学のような取り組みによって、地元のお遍路への理解が深まり、今後は、上記の課題を踏まえ、外国人観光客であってもお遍路さんとして迎える準備が整うことを期待したい。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/