インバウンドで大切なのが、地域連携であると聞くことも多い。しかし、有馬温泉は、国内ではなく、台湾の温泉地との連携を進めている。台湾北部にある新竹県の景勝地「内湾」に海外初となるアンテナショップを設けた。相互PRや技術交流を目指しているのだ。
ポイント:
・個人旅行の時代になり、プロモーション方法を進化させる
・国を超えた地域連携は、似ていることが大切、長い目で育てる
台湾北部にある新竹県には、兵庫県の有馬温泉のアンテナショップがある。
ここでは有馬温泉の映像が流れている。台湾で2014年2月に大ヒットした映画「KANO」(※1)に出演している曹佑寧(ツァオ・ヨウニン)さんと陳勁宏(チェン・ジンホン)さんの二人が動画に登場し、有馬温泉と映画「KANO」とゆかりの深い阪神甲子園球場周辺を紹介している。有馬温泉で名物の炭酸せんべいを食べ、温泉寺を訪ね、金泉でくつろいでいる。
※1 KANO:台湾が日本に統治されていた1931年に甲子園で準優勝した嘉義(かぎ)農林学校野球部の実話をもとに製作された。タイトルは同校の略称「嘉農(カノウ)」に由来している。
この映像の撮影のために来日した曹さん、陳さんはフェイスブックにたくさん写真をアップ。ファン数が14万人以上という曹さんのページに写真がアップされると、あっという間に1万もの「いいね!」がつく。
有馬温泉は、昨年(2014年)の10月下旬に、交流を進めている台湾新竹県の景勝地である「内湾」に期間限定のアンテナショップを開設した。これは、海外初出店となる。
アンテナショップには、特産品である竹細工、寒天、ビーフンが並んだ。
なぜ、新竹県にあるのか。特に有馬温泉との関係が長いわけではない。
ことの発端は、わずか2年前の2013年になる。
邱鏡淳(チョウ・ジンチュアン)・新竹県の知事が、2013年にマスタープランを構築するために、日本全国を視察した。同年6月、神戸の市街地や有馬温泉にも立ち寄った際、有馬温泉に魅了されたことが、大きなきっかけになったのだ。
理由は、新竹と似ている部分が多いからだ。
「内湾」は山の中を走るローカル鉄道の終着点にあたる。周囲には温泉郷も広がり、有馬温泉と環境が似ている。
さらに、新竹県はIT産業の集積地でもあり、このリソースを生かしてバイオ分野に力を入れている。医療産業都市構想を進める神戸市とも共通点がある。
新竹は客家人(ハッカジン)が多い。神戸の中華街にも客家人がいる。
新竹県政府は、翌年の2014年7月、同県・北埔(ホクフ)の観光施設「緑世界」に新竹県内の温泉業者と神戸市・有馬温泉観光協会の金井啓修理事長を招いた。
双方の文化・観光交流について話し合うことが目的だ。
台湾北部の新竹県では、各地に特色ある温泉が点在する。地元を国際レベルの温泉観光地とすることを目指しているのだ。
新竹県知事は、台日双方に窓口を設けて、「台湾新竹月間」、「日本月間」などのキャンペーンを通して観光・農業の特産品を観光地と結びつけてPRしていく考えを示した。
さらに知事は、新竹県と日本の京阪神地方の交流を強化し、双方の観光、経済の発展を促進していくことに意欲を示した。
この日、会場では活発な意見交換が行われ、中には姉妹都市締結による交流を加速させる提議の声も上がった。
それから約3か月後の10月29日に、有馬温泉からの訪問団が、新竹県政府を訪れた。有馬温泉と新竹県が友好交流提携に関する覚書に調印したのだ。久元喜造神戸市長が新竹県に宛てた手紙も紹介された。
双方はこれを機に温泉観光産業の発展につなげたい考えだ。
有馬温泉観光協会の金井理事長は、訪日観光を盛り上げていくうえで、これまでのような旅行会社に営業するだけではじり貧になると考えていた。相互に文化交流を深めていくことも必要だ。それは、団体から個人旅行者にシフトしていくなかで、新しい手法が求められているからだ。
「まさに、渡りに船だった。」と、当時を振り返る。
新竹県と有馬温泉では人、物産、温泉文化などの交流を促進させる。
新竹の温泉、グルメ、農産品を有馬で紹介するほか、日本人のベテラン女将を台湾に派遣し、技術交流を行うという。
有馬温泉観光協会の當谷会長も、「新竹県との調印後、新しい発想と行動が活発に誘引されるよう希望している。新竹県と有馬の地理的位置状況はきわめて似ており、良い発展ができるものと確信している。」と、述べた。
既に相互のプロモーションが動き出している。2015年9月20日発行の新幹線のグリーン車に置かれる冊子に台湾、新竹、有馬温泉の特集が組まれた。
しかし、金井理事長は、「昨今の有馬温泉への台湾人の集客が、プロモーション効果の結果なのかどうかは、判断できない。」と、冷静だ。
台湾からの訪日者数が増加トレンドのなか、自然増が強いからと分析している。中には、有馬温泉でKANOのポスターを見つけて驚く台湾人もいたという。つまり、後から知ったのだ。
しかし、個人旅行者の比率があがっていく今後は、「いろいろな施策にチャレンジすることこそが、大事だ。」と金井理事長。
個々の温泉旅館が、全国の温泉旅館と連携したブランドの構築も進めている。様々な連携が、ブレイクスルーのきっかけになるかもしれない。
いま始まったばかりの国を超えた地域連携。いったい何をもたらすのか長い目で見守っていきたい。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/