「昇龍道」の名の下に、中部北陸9県の自治体、観光関係団体、観光事業者等と協働して中部北陸圏の知名度向上を図り、主に中華圏からインバウンドを推進してきた。その連携で東南アジアへもプロモーションを行うと同時に、外国人観光客の受け入れのための環境整備が進められた。官民が一体で取り組む広域連携の先駆的な事例になった。

昇龍道のイメージとなるエリアと龍のイラスト
昇龍道のイメージとなるエリアと龍のイラスト

今回のポイント

1:インバウンドへの危機感が新しい連携を生む
2:明確な数値目標を掲げることで求心力を高める

かつて、中部・北陸エリアはインバウンド後進地域と言われていた。

観光庁の2012年の宿泊統計よると、都道府県別延べ外国人宿泊者数の状況は、1位の東京都が829.1万人泊、2位の大阪府が306.1万人泊だ。一方、昇龍道の「9県の合計」が、251万人泊と、大きく差をあけられている。
同年にJNTO(日本政府観光局)が、中華圏の訪日観光を扱う旅行会社115社にアンケートした結果、販売に力を入れたい日本の地域は、1位がゴールデンルート(東京―大阪間)71%、2位が北海道の71%、次いで沖縄の67%、東京が33%、関西が27%、九州が23%と続く。中部・北陸エリアは「その他」に含まれているはずだが、そもそも認知されているかどうか怪しいという驚愕の結果に。

日本人には、中部・北陸エリアは、温泉百選、百名山、国宝天守閣など、観光資源の豊富さは十分に知られている。ところが、海外では、ほとんど知られていない。唯一、飛騨高山あたりが、抜きんでている程度だ。

金沢の兼六園。今後は新幹線の開業でさらに外国人客を狙う
金沢の兼六園。今後は新幹線の開業でさらに外国人客を狙う

国内と海外での知名度のギャップが、このエリアの弱みである。
理由としては、中部・北陸全体としてのPR不足。各県のトップセールスが単発的、各地域のPRを自治体、団体がバラバラに実施しているため、エリアとしてのインパクトに欠けるのだ。

行政区域の枠を超え、エリア全体が一体となってPRし、知名度の向上を図ることが喫緊の課題であった。

そこで、広域の地域連携として「昇龍道プロジェクト」が立ち上がったのだ。
中部・北陸エリアのインバウンドの流れを創出する契機となった。

ところで、「昇龍道」とは何だろう。
「昇龍道」とは、具体的には、能登半島を龍の頭に見立て三重県にわたる南北(縦)の軸を龍の姿に重ねてイメージし、命名された。「昇龍道」の名付け親は、中国総領事の張立国氏だ。
龍は、中華圏ではとても良いキーワードだ。吉兆などを表すポジティブなイメージがあり、めでたさに通じる。
この「昇龍道プロジェクト」によって中部・北陸地域の知名度を向上させ、中華圏からのインバウンドの増進を図っている。

プロジェクトの発足は2012年1月で、3月には、推進母体である「昇龍道プロジェクト推進協議会」をスタートさせた。
問題意識の認識から、わずか1年未満で、いかにして広域連携が実現したのか。

「昇龍道」の下地は、中部広域観光推進協議会という集まりにある。
中部広域観光圏の形成、国内外からの旅客誘致を目的として、中部9県3市の観光関係者が結束し、2005年に設立。経済団体も加入していて、民間の声を反映してきた。

2012 年は、日中国交正常化40周年を迎え、かつ、タツ年であった。中華圏からの誘客を促進するための節目となる年である。その節目を目前に控え、2011年はいかにインバウンドで盛り上げていくかが議論された。そこに、中部圏知事会、さらに中部運輸局と北陸運輸局が合流して、昇龍道の枠組みが定まった。

協議会の三田会長によると、あくまでも昇龍道はプラットフォームであり、地域への参加強制はとくにしない。高山などインバウンドに先進的なエリアは、各自でどんどん進めてもらい、広域的なプロモーションの必要があるときに活用してもらえればそれで良いというスタンスだ。

かくして、2012年1月23日に官民あげたプロジェクトを開始したのだが、目標値はエリア内の外国人宿泊者数を3年間で倍増とした。これは発足時の2011年が178万人泊で、これを2014年に400万人泊にするというもの。

協議会事務局の主な役割は、昇龍道として一貫した海外向けプロモーションの実施及び昇龍道エリアの観光力とホスピタリティの強化だ。実現のために、関係者が連携して、継続的に取り組むことができるようにする。

市場への戦略的アプローチとして、対象エリアごとに中国部会、台湾部会、東南アジア部会で具体策が練られる。

海外プロモーションの推進として、昇龍道ミッション団の派遣があった。
海外旅行博・物産展への出展、現地旅行会社の招請・旅行商品造成を促した。
また海外メディアの招請、番組の映像制作、現地で情報発信力のあるブロガーの招請も行った。

観光力の強化とは、受け入れ体制の充実だ。
「昇龍道」の具体策は、ウェルカムカードの発行である。これは、来訪した外国人がこのカードを提示すれば、割引等の特典を受けることができるサービスだ。

昇龍道でいろいろな特典があるウェルカムカード
昇龍道でいろいろな特典があるウェルカムカード

成果として2014年は、400万人泊が達成の見込みとなった。(2015年1月末現在、2014年の10月から12月は集計中)
訪日数は1300万人を超え、全国的には27%増加だった。一方、昇龍道エリアは37%増と抜きん出ている。

今後の展望としては、Wi-Fi環境整備、ムスリム対応など、受け入れ環境の強化が続く。
また交通の利便性の向上として、お得感のある交通パス・路線等の開発。レンタカーの多言語対応もある。更には、訪日外国人2000万人を見据えた、昇龍道地域内の宿泊地の地域間格差の解消や、ショッピング環境の充実、クルーズ船誘致など多くの課題がある。

海外だけでは片手落ち、国内における昇龍道の認知度向上も必要だ。国内で誰に尋ねても昇龍道が何かを答えられるようになってもらいたい。
そこで、中日新聞主催で、「昇龍道リレーシンポin東京」が2015年1月16日に東京のイイノホールで開催された。さらに東京駅の八重洲中央口コンコースでも昇龍道観光展を開催。

海外旅行は、ピンポイントでするのは稀で、たいがいは周遊をする。そのためにも「エリア全体」の魅力を伝えることが重要だ。知名度の低い観光地もルート上に置くことで誘客につなげられる。
ルート開発も今後の重要なテーマで現在力を入れているのが「日本銘酒街道」だ。
地域が連携することにより、新たな観光ルートの試みが行われている。

東京駅の八重洲口での昇龍道のキャンペーン
東京駅の八重洲口での昇龍道のキャンペーン
マレーシアで昇龍道として商談会を開催
マレーシアで昇龍道として商談会を開催

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/