仙台空港は、民間の知恵とノウハウを結集し、利用者数が伸び始めている。今後は「東北の空の玄関口」として、海外からのエアラインも増えるだろう。空港施設の運営権と所有権を分け、空港施設の運営権を民間事業者に設定することで、柔軟な戦略を練ることができるようになった。
ポイント:
・民間経営の知恵とノウハウを活かし、仙台空港の利用者数の増加を図る
・官民が一体となり、空港を起点にした東北のプロモーションが強化されつつある
■空港施設の運営権と所有権を分けることで空港の可能性が広がっていく
仙台空港は2016年の民営化以降、国内線に加えて国際便が増え、東北地方のハブ空港(※1)となりつつある。
仙台空港の民営化は、国に基本施設の所有権を残したまま、運営を民間企業に委託するコンセッション方式(※2)で行われた。2014年から行われた入札の結果、東急電鉄を代表とする東急前田豊通グループ(※3)が選ばれ、このグループの出資により2015年11月に仙台国際空港株式会社(以下、「仙台国際空港㈱」と記載。)が設立された。
(※1)ハブ空港とは、通常の空港よりも数多くの他空港への航空路が確保され、離着陸する航空機の機数や取り扱う旅客や貨物の量も非常に多い空港。乗継便も多い。
(※2)コンセッション方式とは公共インフラの運営に民間事業者の資金やノウハウを活用する手段。仙台空港の場合、基本施設の所有権は国が保有している。
(※3)東急電鉄、前田建設工業、豊田通商、東急不動産、東急エージェンシー、東急建設、東急コミュニティーから構成される企業連合
航空管制、出入国管理、通関、検疫に関する運営は引き続き国が行っていて、その他の空港運営に関するすべての業務を新会社が担っている。
仙台国際空港㈱はそれまで別会社・団体が縦割りで行っていた空港ターミナルビル、貨物、駐車場、売店等の運営を一体化させ、空港としての全体的な戦略を策定できるような体制にした。民営化前から働くスタッフ約80名が残り、現在は150名体制に増えている。
■民営化の目玉は航空営業を担当するチームだ
仙台国際空港㈱は設立当初より、ターゲットとして中部以西の日本人、さらに客数の伸び代が大きい外国人旅行者を想定している。新規事業としてエアラインの誘致に力を入れていて、就航の可能性が高いエアラインをリサーチし、東北のニーズを考えて戦略的に活動している。
民営化初年度の2016年度は、当初計画の旅客数321万人には5万人ほど届かなかったが、民営化前と比べて微増だったものの、国際旅客数は計画の15万人を大幅に上回る22万5,600人に達し、貨物も計画の0.6万トンを上回る0.7万トンとなった。
2017年度の国内目標は初年度を上回る314万人、国際旅客は4万人増の26万人、旅客全体では7.9%増の341万人を目指している。上半期は170万人を達成し、目標に届く勢いだ。外国人客に絞った旅客数のデータはないが、インバウンド需要は確実に伸びていると担当者は言う。力を入れてきた新規エアラインの誘致、便数の増大への取り組みが実を結んできた結果だ。
2016年には台北路線にタイガーエア台湾が新規就航し、翌2017年にスカイマークの就航、同年9月にはLCCのピーチ・アビエーションが仙台空港を拠点化した。また、2016年よりソウルへのアシアナ航空は週4便から7便に増えている。
こうして便数が確保できたことによって、海外からの空港利用者数の増大も見込める。便数が少なければ、それだけ利用者数の上限も小さくなるからだ。
■利用者に支持される情報やインフラの整備を進める
ピーチ・アビエーションの拠点化は、とりわけ大きなインパクトを与えた。国内線と国際線を各1路線、合計2路線を新たに開設し、それを機に宮城県との共同プロジェクトとして、東北の情報を訪日女性旅行者に向けて発信する特設ウェブサイトを開設したのだ。
※「COMOMO」というページで、中国語(繁体字)版は以下のアドレス
https://comomo-japan.com/ct/?www_pc_zh-tw_mini_banner_09
旅の途中に発見した東北のモノやコトを紹介し合う仕組みを用意し、実際に東北を旅行した女性が中国語(繁体字)、韓国語、英語、日本語で投稿できるようになっている。訪日外国人の国別内訳は1位が台湾、次いで中国、韓国、アメリカとなっている。投稿も台湾旅行者からが多く、カフェやホテルの情報が役立っているそうだ。
とはいえ、いくら便数を増やしてもそれを利用する人が少なければ、将来的にはジリ貧になってしまう。仙台国際空港㈱では、宮城県をはじめとする東北6県や交通機関、旅行代理店等と連携を取っていて、海外での商談会や共同プロモーションを実施しているほか、インフルエンサーの招聘事業、キャンペーンなどでも足並みを揃え、様々な施策を打ち出している。
一方、同社は七十七銀行や日本通運等と協働して、「東北・食のソラみち協議会」を、また、東北の農水産品生産者による「東北・食文化輸出推進事業協同組合」を立ち上げた。東北地域の高品質で安心な食品・農林水産物等の輸出をより一層促進するのが目的だ。
東北地域の課題である二次交通について、東北における観光戦略の司令塔とも言える(一社)東北観光推進機構では、仙台空港の利用促進を図ると同時に、東北全体の観光需要を喚起するため、「立体観光」化を推し進めている。それは、仙台空港をゲートウェイとする航空と鉄道、船舶を組み合わせ、陸、海、空をネットワーク化し立体的に組み合わせるものだ。
東北地方は、各県庁所在地に新幹線でアクセスでき、仙台空港からの乗継が可能だ。
さらにバス便の充実が進んでいる。仙台駅から仙台空港まではJR直結のアクセス線が10年前に開通したことにより仙台駅へのアクセスが向上した一方で、観光地と空港の直通バス便が減っていた。しかし、仙台の市街地に出るよりも旅の目的地に直接行きたいという旅行者のニーズが多くあり、2016年から6路線が、具体的には、福島・会津若松へは2016年11月、松島、平泉へは2017年1月、酒田、山形へは2017年4月、秋保温泉へは2017年9月からスタートしている。こうした動きも空港民営化によって、バス会社と商談をしやすい体制になったことが大きいと担当者は言う。
また、最近では函館まで新幹線がつながったことで、仙台インの札幌または函館アウトという東北だけに縛られない旅行商品も造成されるようになってきた。
仙台空港をハブ空港とする戦略が着々と進んでおり、この先どんな新しい観光ルートが生まれるのか楽しみだ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/