福島県の奥会津を走るJR只見線は、2011年の豪雨によって橋梁が崩れ、会津川口駅(金山町)-只見駅(只見町)間で不通の状態が続いている。それが、2017年6月にJR東日本は福島県と上下分離方式によって復旧する方針で合意に至った。実はこの只見線、沿線の写真を撮ることが目的の外国人客が急増している。その経緯と今後の展望をまとめた。
ポイント:
・鉄道写真の絶景を訴求ポイントにして写真好きの外国人の心をつかんだ
・奥会津の中国人妻達も協力し、田舎体験をより深く紹介
■奥会津の鉄道写真がきっかけで外国人にブレイク!
福島県の秘境、奥会津を訪れる外国人旅行者がここ数年で増えているという。
彼らの目的は、只見川に沿って走るJR只見線の鉄橋と列車の写真を撮ることだ。
もともとは、東北観光推進機構が2015年2月に中国版ツイッター・微博(ウェイボー)でJR只見線を「世界で最もロマンティックな鉄道」と、写真とともに紹介したことが人気となるきっかけとなり、中国からの観光客が増加しはじめた。同年10月には、福島県観光交流課が地元の郷土写真家である星賢孝さんが撮った只見線の写真をフェイスブックで紹介し、台湾やタイでも話題を呼んだ。県では、引き続いて11月に台湾からのブロガー招聘を実施、その後も台湾や香港等の商談会で奥会津の魅力を伝える活動をしている。
只見線の秘境感のある写真を前面に打ち出したPRの仕方が功を奏し、最近では口コミによって、中国だけではなく、香港、台湾、タイなどアジアからの観光客も訪れるようになって、2017年現在では台湾からの個人観光客が一番多くなっているほどだ。
只見線の会津川口駅がある金山町の金山町観光物産協会担当者によると、外国人観光客が協会を訪れてきて、良い写真撮影スポットを質問することがよくあるという。こういう時には地図を使って指差しでアクセス方法を教え、対応している。会津柳津駅から只見駅までが深い渓谷になっていて、橋梁が8つもあり、そのうち4つは先の豪雨災害により落橋して見えないが、残り4つは美しく撮ることが可能だ。人気のシーズンは冬で、早朝に山の木々に雪が積もると、雪の華が咲いたような幻想的な雰囲気になる。アジアでは雪山が珍しく、そこに鉄橋があり、小さな車両が走るのはとても絵になる。「彼らは大型の望遠レンズを持っており、おそらく富裕層ではないか」と担当者は語った。
それでは、外国人観光客の拡大の発端となった、中国からの訪日観光客獲得に向けた当時の状況は、どのようなものだったのだろうか。
■個人旅行者がきっかけで、プロモーションによって団体旅行者を誘致
地域のインバウンド施策を中心的に進める主体である只見川電源流域振興協議会(奥会津の7つの町と村が参加している協議会)の担当者は「外国人個人旅行者が増えてきた状況で、奥会津は2015年ごろからインバウンドに力を入れるようになった」と、振り返る。
鉄道の復旧利活用に向けた検討会やワークショップで、海外から注目されている事も議論の中で出たそうだ。直接的にインバウンドが復旧につながったとは言えないものの、1つの要因になっていることは確かだと言う。
インバウンドに注力し始めた当初、協議会の担当者は2015年秋に福島県の上海事務所を訪ね、その紹介で現地の旅行会社やメディアを訪問して奥会津をPRした。
新潟空港からスタートして奥会津に入り、鬼怒川を抜け、最後に東京へ出るコースを作成してPRした結果、現地の訪日旅行雑誌「行楽」に記事を掲載してもらえることになった。
一方、旅行会社向けにはモニターツアーを20~30人規模で実施し、沿線の魅力を存分に味わってもらった。只見川と只見線の風景が訴求ポイントで、田舎を前面に出していき、旅館も田舎にある素朴な小規模旅館に泊まってもらった。
その後、実際に中国からの団体ツアー受け入れが始まり、日本へのリピーターがやって来るようになった。今までは団体ツアーと言っても30名前後の規模だったが、2016年度は合計159名の中国人ツアー客がやってくるほどに規模が拡大した。奥会津全体の外国人宿泊者数は、2016年が前年に比べ347人増の806人になったと只見川電源流域振興協議会の担当者は語った。
■田舎体験をしてもらおうと、中国からのお嫁さん達も尽力
また、金山町の前町長・長谷川律夫氏が地域としてインバウンドに力を入れていくべきだと訴え、長谷川氏の発案で、2015年11月に金山町日中友好協会を設立している。会長は、前述の星賢孝氏だ。協会メンバーには結婚を機に中国から渡ってきた女性が15人ほど参加している。日本に来てから20~30年となる方もいる。奥会津の伝統にも詳しく、中国との橋渡しになることが期待されている。
そうした金山町日中友好協会の女性メンバー5人が、2016年12月に在上海日本国総領事館や現地の旅行代理店などを訪れ、取り組みをPRした。
彼女たちは星氏の写真を持っていき、中国語での解説を交え、四季ごとの魅力を訴求した。
只見川電源流域振興協議会としても、今後は奥会津の暮らしを体験してもらいたいと考えており、中国でのPRに金山町日中友好協会が一役買っている。上海は大都会なので、逆に田舎としての魅力をアピールし、まさに日本に故郷を持ってもらうようなイメージだ。農家民泊、川遊び、渡し舟体験など自然と触れる機会を提供したい。町内には宿があって、協会が通訳サポートをする等、安心して田舎に来てもらえる体制が整いつつある。
そして、観光に訪れた中国人に対し、中国の食文化と地元の田舎料理をミックスさせてオリジナルな料理を提供したいと意欲をみせている。
奥会津の秘境が、鉄橋写真で注目され、田舎体験の観光地になろうとしている。
2017年6月、JR東日本は福島県と「只見線(会津川口駅~只見駅間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」を締結した。同県が鉄道施設や土地を保有し、JR東日本が列車の運行を担う「上下分離方式」で復旧させる方針が決まったのだ。まさに良いタイミングでの復活となる。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/