北陸新幹線の開通効果もあって金沢を訪れる観光客が増えている。一方で金沢の観光コンテンツでもある古い街並みが年々失われつつあり、観光客の増加について諸手を挙げて喜べる状況ではない。そこに歯止めをかけるべく、金沢市では施策をうっているが、今回はその一つである金澤町家を不動産市場に流通させて、保全活用する仕組みを紹介する。

金沢には古民家が多く、それ自体が大切な観光資源だが、年々減少傾向
金沢には古民家が多く、それ自体が大切な観光資源だが、年々減少傾向

ポイント:

・活用されなくなった金澤町家を流通させる施策として、金澤町家情報バンク、金澤町屋情報館を活用
・金沢市の取り組みで金澤町家の雰囲気や良さを理解する人が増えてきた


■金沢の古い街並みが魅力となって観光を促進

北陸新幹線効果も手伝って、金沢市を訪れる外国人観光客が増加している。市によると外国人の宿泊者数は、2014年が約20万人、2016年が約40万人と2年間で倍増している。
とりわけ、金沢の古い街並みが外国人観光客に人気だ。旧城下町区域には、金澤町家(※1)を利活用したカフェや店舗、宿等が、地図に載っているだけでも約80棟並んでいる。最近では2017年8月に元々紙問屋だった建物を改修してできた旅館も誕生している。

(※1)金澤町家:1950年(昭和25年)時点で現存していた木造の建築物で、かつて商人や職人の住んでいた町家、武士系住宅、近代和風住宅の3つの総称を指す。旧城下町区域を中心にある金澤町家は2015年度末の推定で約6,100棟。

金沢市では約430年にわたって大きな災害がなく、また、先の戦災も免れたことから、都市の骨格とともに金沢城や金澤町家などに代表される歴史文化資産が多く残されている。金沢市には重要伝統的建造物群保存地区が4カ所もあるが、この数は京都市・萩市と並んで全国で一番多い。金沢市ではこの伝統的建造物群と21世紀美術館やJR金沢駅などモダンな建築とのコントラストが観光客にも人気となっている。

金沢駅の入口には伝統とモダンさを兼ね備えたモニュメントがある
金沢駅の入口には伝統とモダンさを兼ね備えたモニュメントがある

■金澤町家情報館が開館し、金澤町家に関する情報の発信や総合相談を請け負っている

そんな中、課題となっているのは金澤町家の老朽化と減少である。金沢市の町家保全活用室の石浦裕治室長によると、金澤町家は年間で100棟弱、減少しているそうだ。
金澤町家は先祖伝来の物件であるため、たとえ住んでいなくても、手放すことはもちろん、貸すことにも抵抗があるという所有者は多い。所有者自体の所在が不明な場合もあり、宙に浮いて空き家になり老朽化が進んでいる物件もあるという。
また、改修に多額の費用がかかり、断念するというケースもある。改修費用は1,000万円を超えることもあるが、現在、金澤町家に住んでいる世帯には60歳以上の世代も多く、ローンを組めず資金を用立てられないことも多い。結果、老朽化した金澤町家を解体し、更地にして土地を売却してしまうというケースもある。

こうした状況に危機感を抱いた地元の大学教授など有識者が金澤町家の保存活動に動き出し、2008年にはNPO法人金澤町家研究会を設立した。研究会はまず、市からの委託により当時は正確に把握されていなかった金澤町家の数の実態調査を実施した。この調査は4、5年毎に実施されており、金澤町家が年々減少していることを数値として把握することができるようになった。

また、これまで市が担ってきた金澤町家の改修や売買にかかる相談窓口機能も研究会が担うこととなり、改修の場合は相談者の要望にあった設計士や施工会社、売買の場合は金澤町家の売買に強い不動産業者等を紹介するなど、スピーディーに話が進むようになった。

金沢市は、研究会とともに金澤町家の保全活用に力を入れており、昨年度は、金澤町家の改修費補助に約2,000万円の予算をかけている。不動産会社に対しても、金澤町家の保全活用の意義を知ってもらうためのセミナーや、改修費補助金、流通の仕組みづくりなどに取り組んでいる。その成果もあって、空き家の中でも金澤町家に特化した金澤町家情報バンク(※2)への登録が加速している。

(※2)金澤町家情報バンク:金澤町家に特化した売買や賃貸物件情報が掲載されていて、金沢市によって2005年に立ち上げている。

その後、2013年に金澤町家の保全と活用を推進し、減少に歯止めをかける目的で、「金澤町家の保全及び活用の推進に関する条例」を制定した。

2016年11月、市所有の金澤町家を改修、整備した「金澤町家情報館」が完成した。実際の金澤町家の再生活用事例として館内を見学することができる上、施設内には金澤町家研究会の職員も常駐していて、改修等をはじめとした金澤町家に関する総合相談が気軽に受けられるようになっている。

金澤町家情報館の外観。実際の古民家を活用している
金澤町家情報館の外観。実際の古民家を活用している

■不動産業者に金澤町家の価値と魅力を理解してもらい、販売流通にのせる

かつては更地にして売るなど失われる一方であった金澤町家の物件であるが、ここ1、2年、金澤町家を求める個人や事業者が増えてきている。人気物件となると、掲載後一週間で購入が決まることもあるほどだ。

金澤町家情報館内は、古民家の資料展示のほか、商談スペースもある
金澤町家情報館内は、古民家の資料展示のほか、商談スペースもある

すでに京都で町家の宿や飲食店を展開している金沢以外の事業者の進出も増えている。町家自体が高付加価値なものと認識が変わってきたのだろう。

また、住宅用として購入を考えている30~40代の市民からの相談も増えたという。生活スタイルが多様化している影響もあって、郊外の新築物件に住むか、金澤町家を改修して住むかで検討する方が多い。木材の古風な雰囲気や街並みに加えて、昔ながらのコミュニティーも存在するところが気に入るようだ。市街地にあるので、利便性が良いことも大きなポイントになる。また、実際に金澤町家のカフェに訪れてくつろぐことで、その良さが金沢市民に理解されるようになったのだろうと金澤町家研究会の担当者は言う。

古民家をリノベーションした場合の雰囲気を金澤町家情報館で実感できる
古民家をリノベーションした場合の雰囲気を金澤町家情報館で実感できる

このように伝統的な金澤町家が地域住民の生活の場として継承されていけば、現代のリアルな町家暮らしを目にすることができる観光地として、価値も向上していくだろう。

持続可能な金沢の街並みが面白くなっている。

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取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/
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