大間のマグロといえば、その一級の味はもちろん、1本釣の漁法が有名だ。その映像を通して台湾や中国からも注目されるようになり、2017年8月には新しく外国人向けに大間でマグロ漁の見学ツアーが作られた。大間は函館から船で約1時間30分という近さを利用し、函館空港を利用する外国人客へのアプローチも目指す。ツアーの仕掛け人は女性で、地元でまちおこしや旅行会社を経営しつつ、地元の人脈を活かすことによって実現させた事例である。
ポイント:
・既に有名になっている大間のマグロをキラーコンテンツにして誘客
・地元の人脈があるからこそ実現したマグロ一本釣の見学ツアー
・津軽海峡をまたいで連携が進む「マグロ女子(通称:マグ女)」の活躍
■大間のマグロの一本釣が、迫力ある映像を通して広まる
2017年8月、青森県で大間のマグロ1本釣見学ツアーが始まる。
全国的に知名度の高い大間マグロ。台湾や中国の一部など海外でも知られている。大間ではマグロをインバウンド誘客につなげようと8月から「大間マグロ一本釣り漁ウォッチングツアー」が実施されることになった。チラシを主催会社が中国語(繁体字・簡体字)、英語で作成して、行政などを通じて、現地エージェントへプロモーションをかける。
台湾や中国本土で大間のマグロがなぜ知られるようになってきたのか。きっかけには、例えばテレビ東京制作の「巨大マグロ戦争」など、マグロ漁のドキュメント番組が何本かテレビで放映された影響があるのではないかと、ツアーを手掛ける旅行会社Yプロジェクトの島康子代表は言う。
特にこれまで海外向けにプロモーションをしたことはないがインターネット上でこういった映像が広がっていったと考えられる。
大間マグロの一番の特徴は、なんといっても味の良さである。脂の乗りが良く、深い味わいの赤身は、刺身などにはうってつけだと言われている。最もおいしい季節は、秋から年始めの寒い季節で、2013年の初セリでは、1本で1億5,540万円を超える高値が付いた事もある。
そして、もう一つの特徴は1本釣という明治から現在まで続く伝統的漁法だ。漁師が大きいマグロを狙い、人間とマグロとの1対1で対峙する姿など、このように時代を感じさせるストーリー性や視覚的なインパクトも手伝って大間のマグロは人気が高いのだ。
■マグロ一本釣の見学ツアーには勝算があるのか?
ツアーは大間の漁港から漁船に乗り込み、漁場までの往復を含め最長3時間だ。このツアーでは、大間の地元漁師である泉氏が自分の船にツアー客を乗せ案内してくれる。なお、マグロ漁には主に昼に行う一本釣と、夜に行う延縄漁(はえなわりょう)の2種類あり、普段、夜に延縄漁を行っている泉氏の船を昼間に活用させてもらうことによって実現したものだ。マグロ漁師は通常、漁場に知らない船がやってくるのを嫌うため、地元漁師である泉氏の船に乗るという内容だったからこそ成立したツアーとも言えるだろう。
このツアーを企画したきっかけは、Yプロジェクトの島氏に外国人旅行客からマグロ漁船に乗って、マグロ1本釣の姿を見たいという要望が多く寄せられたことによる。
2016年夏、青森県庁の観光国際戦略局観光企画課との意見交換の際に、マグロの1本釣の見学コースのニーズを伝えたところ、青森県とYプロジェクトの連携企画として進めることになった。観光企画課では、海外から富裕層を呼びたいと考えていて、ありきたりの観光ではなく、新しい体験的なものを探していたところであり、両者の意見がまさに合致した。
そこで早速、県がYプロジェクトに委託する形で同年秋に新しいツアーづくりがスタートした。もともと観光企画課が富裕層向けの予算を確保していたところ、この企画で具体的になり、「大間マグロ一本釣り漁ウォッチングツアー」のモニターツアーの実施が可能となった。
モニターツアーは10月に実施したため、時化(シケ)のタイミングとなり、海が荒れて参加者は船酔いに苦しんだという。マグロ漁の季節は8月から年明けまで続くが、秋以降は気象条件によって海が荒れることが多いため、観光には向かないことが分かった。
主なターゲットは、函館に就航している台湾路線だと言う。また関空や成田からのLCC便も増え、函館経由で大間に来る観光客の増加には期待が持てる。
その他、札幌の旅行会社にもアプローチをして、北海道から南下するツアーに組み込んでもらうよう働きかけをしている。
8月初旬にはYプロジェクトがお披露目会を開催し、メディアや旅行会社も参加した。観光企画課では、首都圏のメディアや台湾のユーチューバーを招聘しPR活動を後押しした。
■津軽海峡に新しい風を! 地元の人脈が財産だ
このツアーを組み立てるには、地元の人脈が重要だ。島代表はもともとこちらの生まれでUターンで戻ってきた。その際に、まちおこしゲリラ集団「あおぞら組」を立ち上げ、地域の活性化に貢献し、人脈を広げたと言う。まさにその人脈があったからマグロ見学ツアーも実現したのだろう。
そして現在は、大間にとどまらず、津軽海峡を挟んだ広域連携を進めている。
連携メンバーは、道南と青森県の津軽海峡圏で活動するパワフルな女性たちだ。団体名は、津軽海峡マグロ女子会、略して「マグ女」と名付けられた。泳ぎつづける津軽海峡のマグロのように、次から次へとチャレンジし続ける女たちの連合体だ。
彼女たちは、津軽海峡を挟む青函エリアの魅力発見イベント「マグ女のセイカン♥博覧会」の企画をはじめ、まち歩き、グルメ、手作り体験など、多彩なプログラムを実施している。
女性らしい柔軟な対応により、メンバー同士で補完し合う関係性で成り立っている。活動を続けるためには、お互いを褒め合って、さらに個性を磨くことが重要だと島代表は言う。それぞれの良さが出てくると楽しくなるそうだ。
このような地域を盛り立てる人々の連携によって、次なるインバウンドのツアーが生まれるかもしれない。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/