鹿児島市の桜島は市街地から手軽に火山観光をできる場所だ。中国本土から九州をまわる個人旅行者が増え、桜島も立寄スポットになっている。地域資源を活かした火山観光を磨き上げ、ユニークな温泉掘り体験コースもある。増加する外国人に向けた安全対策にも着手した。
ポイント:
・火山を体験できる施設やプログラムが充実、外国人にも水平展開
・個人旅行者を意識したアクセスや情報を充実させる
■日本人観光客数が落ち込む一方で、訪日外国人数が急速に伸びている桜島。
鹿児島市の魅力の1つは、やはり市内から眺望できる桜島だ。その桜島を目指し、市内から日帰り観光をする外国人旅行者が増えている。外国人旅行者は、噴煙を上げる活火山が目の前にそびえることに驚くのだという。
もっとも、桜島の歴史や観光情報を紹介する桜島ビジターセンターの入場者数は、ここ数年は減少傾向だ。理由は、国内需要が大きく落ち込んでいて、2013年度が92,414人、2014年度が75,223人、2015年度が53,911人といった状況だ。
一方、着実に伸びているのが、外国人旅行者だ。そのうち最も高い伸び率を示しているのが、中国本土からで、2013年度が733人、2014年度が1,822人、2015年度が4,607人だ。その伸び率は6倍を超えている。また、香港からは、2013年度が1,997人、2014年度が5,033人、2015年度が5,737人だ。
韓国やヨーロッパ等についても、いずれもここ数年、入場者数を伸ばしている。
トレンドExpress社によると、同社が中国のSNS上のクチコミを収集し、分析した結果、「桜島」がトレンド上位にあがっているという。
中国のSNS上に「日本で〇〇に行った」と書き込まれた投稿のうち、2016年上半期に初登場したものを収集したところ、いくつかの九州のスポットが人気を集めた。4位に「黒川温泉(熊本)」、5位に「宇佐八幡神社(大分)」、そして7位に「桜島(鹿児島)」、10位に「阿蘇火山博物館(熊本)」がランクインした。
なぜ九州が多いのか、同社では分析ができていないが、プロモーション効果ではないかとみているようだ。
■火山観光というユニークなコンテンツがその魅力
鹿児島県観光連盟の担当者によると、桜島の魅力は、市街地から手軽に活火山の観光を楽しめることだという。60万の人口を抱える鹿児島市街地から海を挟んで4kmの場所にあり、市街地からフェリーでわずか15分というアクセスだ。
桜島は錦江湾にあり、その大きさは東西約12km、南北約10km、周囲約55kmだ。かつては島であったが、1914年(大正3年)の大噴火により、鹿児島市の対岸の大隅半島と陸続きとなった。約4,000人が暮らし、桜島小みかん、桜島大根など自然の恵みがあり、眼前に広がる錦江湾は良質な漁場でもある。
桜島では、もともと火山に特化した観光コンテンツづくりをしていて、NPO法人桜島ミュージアムでは、島全体を博物館と見立てた取り組みを進めている。
具体的には、日本人向けに、桜島を「知る」、「学ぶ」、そして「体験する」コンテンツを展開している。桜島火山ガイドウォーク、シーカヤック体験、溶岩でピザ窯作り体験などのコースがあり、多くの日本人旅行者を受け入れている。
さらに2013年に日本ジオパーク認定を受けたことにより、地元では、地域の特質を観光資源にしていこうという意識改革につながっているそうだ。
海外向けには、香港のブロガーのモニターツアーの受け入れを行っている。
その1つである温泉堀り体験は、キャッチーなコースであり、写真映えすることもあって、ブロガーには好評だったという。
温泉堀り体験の内容は、桜島ビジターセンターから車で20分の海岸に、温泉が湧くポイントがあり、そこで小さいスコップで源泉を掘り当てるというものだ。実際には、スコップがなくても、手を泥だらけにしながらでも可能だと言う。わずか2cmほど掘るだけで温泉が湧いてくるのだ。高い時は42度Cほどで、手でしっかりと温かさを実感できる。
ガイドと行く体験ツアーは3,500円で、NPO法人桜島ミュージアムへ事前に連絡して申し込むことができる。
しかしながら、海外からの受け入れは1年間に10数件ほどしかない。これは、事前に申し込みが必要であることと、通訳案内士の資格を持つガイドがいないことなどが理由で、外国人の受け入れは今後の課題であるとのことだ。
体験ツアーとは別に、桜島ビジターセンターでは、タオルとスコップ、海岸周辺のマップがセットになった「温泉掘りセット」を500円で販売している。こちらは、ガイドを伴わずに体験することも出来るため、外国人の購入者も増えているという。
また、外国人旅行者の人気スポットとしては湯之平展望台が挙げられる。火口に一番近く、錦江湾と市街地の眺めが好評の湯之平展望台へは、島内の周遊バス(1日乗車券500円)利用が便利だという。桜島港を発着点に1周約60分で運行している。その周遊バスの案内パンフレットは英語版と中国語版もあり、外国人個人旅行者が使いこなしているようだ。
■火山観光にはリスクも伴う、外国人向けの安全対策を進める
一方で、外国人が増えることによる懸念事項もあると観光連盟の担当者は語る。それは、活火山であるが故の防災への対応だ。
2015年夏に、一時的に大規模噴火への警戒が高まった際に課題として外国人対応があがったのだ。過去に桜島の噴火警戒レベルが4(避難準備)に引き上げられた時は、外国人観光客への周知が徹底せず、立ち入りが禁止された施設に入る事例があったという。
そこで、外国人観光客向けに避難を呼び掛ける放送を多言語で流すことにした。
2016年の1月に行われた大規模噴火を想定した防災訓練では、市や鹿児島県など約150機関の関係者と一部住民が参加した。市職員らが防災無線で避難指示を伝え、さらに英語、中国語、韓国語の放送もされた。
市街地から近い活火山は、世界でも珍しい。観光コンテンツとして磨き上げを進めると同時に安全をいかに担保するかも忘れてはいない好事例だ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/