都心から近い川越の古い町並みが外国人旅行者に人気だ。この土蔵が並ぶ姿は、地域が主体としてまちづくりを担ってきた結果としてある。行政もそれを後押しして、受入整備が進んでいる。どのような取り組みなのか、現状を探った。

江戸時代の情緒を残す蔵屋敷が並ぶ通り
江戸時代の情緒を残す蔵屋敷が並ぶ通り

ポイント:

・小江戸という地域のプライドが、より良いまちづくりの原点
・受入環境の整備により、外国人も街歩きを楽しむ

■小江戸の魅力が外国人観光客にも伝わっている

埼玉県の川越を散策する外国人旅行者が増加している。
川越市の観光課の担当者によると、2014年の外国人観光客数は7万7000人だったが、翌2015年は11万9000人に伸びている。

川越は、江戸情緒が残るエキゾチックな街並みが魅力だ。江戸時代には江戸北方の守りとして川越城が築かれ、徳川氏の重臣が入封し、親藩・譜代の川越藩の城下町として栄えた。その面影が街の各所で見受けられるのだ。
その中でも特に、重要伝統的建造物群保存地区の古い土蔵が並ぶ商店街に江戸情緒が残り、人気のスポットとなっている。

外国人が増えた背景の一つには、都心からのアクセスの利便性があげられる。池袋から急行で30分ほど、新宿からも乗り換えなしで1時間もかからない距離だ。
そして、市内の観光スポットがコンパクトなので、半日ほどで観光できる。手軽に歴史観光を楽しめるため、池袋や新宿のホテルのコンシェルジュは、外国人の宿泊客に川越を案内するケースが多くなってきたそうだ。

川越を代表する観光スポット「時の鐘」周辺には旅行者が多い
川越を代表する観光スポット「時の鐘」周辺には旅行者が多い

川越は、「小江戸」の別名を持ち、江戸・天下祭を受け継ぐ川越まつり(※1)がある。小京都は全国数多く存在するが、小江戸と名乗る街は珍しい。だからこそ川越市民には、小江戸という城下町のプライドがあるのだろう。古い土蔵の商店街を残そうとする活動は、もともとは市民運動から始まった取り組みだ。市民が自分たちの住む町を価値あるものとして保存しようという意識が高いのだ。

※1:川越まつりの原点である「川越氷川祭の山車行事」は、2016年12月にユネスコ無形文化遺産に登録された

例えば、街並み保存のための電柱地中化工事は地域からの要望によって進んだ。
370年続く川越まつりでは、町内ごとに山車が出て練り歩く。通常であれば、その山車が通る際には電線をかわすのに一苦労あるのだが、土蔵が並ぶエリアでは電柱がなく、勇壮な姿を楽しめる。

■街歩きをテーマに受入整備に特化した川越市の戦略

川越市のインバウンド戦略は、受入整備に特化して、プロモーションについては、県や鉄道会社との連携に専念している。役割分担を明確にしているのだ。
海外での旅行商談会には、埼玉県が出展して、川越市はパンフレット等を提供している。県としては、秩父、川越をまわる「プラチナルート」という名前で訴求している。
台湾のITFという旅行展示会には、西武鉄道が参加して、目的地の一つとして川越を訴求してもらった。

一方、受入整備においては、「街歩き」をテーマにいくつもの取り組みが進んでいる。

例えば、多言語の街歩きマップにも力を入れている。表面が地図、裏面が観光情報になっているもので、もともとは、英語と中国語(繁体字・簡体字)、韓国語で書かれていた。さらに2015年には、スペイン語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、タイ語がプラスされ9言語になった。これは、川越が2020年のオリンピックのゴルフの競技地に選ばれ、オリンピックを契機とした外国人観光客受け入れ整備の取り組みの一つとして実施された。

多言語になった街歩きマップが観光案内所に置かれている
多言語になった街歩きマップが観光案内所に置かれている

また、街歩きをコンパクトに楽しみたい人へのサービスもある。
川越の観光スポットは、徒歩で散策できるぐらいに小さな一角に揃っているものの、ゆっくり散策すると丸1日かかってしまう。
そこで、効率的に回ることのできる循環バスがある。レトロなデザインで川越の雰囲気を伝えていて、外国人の利用も多いという。

さらに、自転車シェアリングを併用した街歩きもある。レンタルサイクルと大きく違うのは、1台の自転車を1日借りるのではなく、借りてから40分以内に11カ所の拠点のうちのどこかに一度返さなければならない、ということだ。しかし、次は別の自転車に乗ることができ、それを何度でも一日繰り返して借りることができる。ちなみに、通常は一日200円だが、40分以内に戻さないと追加料金がかかる。

黄色いデザインで目立って探しやすいシェア自転車のスタンド
黄色いデザインで目立って探しやすいシェア自転車のスタンド

外国人が増えたことによって、地域で変化したことがある。それは、語学に前向きなお店が増えつつあるということだ。地元に大手の英語教材の会社があり、ここが川越の観光を案内する英語のストーリーを作成し、聞くだけで勉強になるということで、地元のお店のスタッフが使うようになったのだという。そしてこれまでは英語対応におっくうだったが、積極的に接客するように変わったとのことだ。

■次のフェーズは、川越のグルメ、ウナギと薩摩芋を外国人に訴求

観光課の担当者は、今後は、観光客の滞在時間を長くして、客単価をあげる取り組みが必要だと語る。
一般的に客単価を上げる方法は、地元のホテルを利用してもらうことだが、川越はホテルが少なく受け入れが難しい。そこで考えたのがグルメである。
特に、ウナギ料理と地酒をおすすめしたいという。市内に老舗のウナギ屋が多く、お店によっては英語対応して、英語メニューを作成しているところもある。観光案内所では英語のウナギ屋リストもある。また、川越の地酒は、原点が明治時代と古く、市内には飲み比べができる店舗もある。外国人にも飲み比べをしてもらい、日本酒を楽しんでもらいたいと担当者は語る。

さらにお土産品として芋菓子もある。もともと薩摩芋の産地として、江戸時代より栽培されてきた。それに付随した薩摩芋を原料としたお菓子が数多く開発されているのだ。

今後は、グルメを知ってもらう取り組みが必要だが、具体的な手立ては検討中とのこと。次なる戦略に期待がかかる。

川越にはサツマイモに関連したお菓子が多く、その場で食べられる
川越にはサツマイモに関連したお菓子が多く、その場で食べられる

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/