海から見る東京は、まったく違う風景を提供してくれる。羽田空港国際線ターミナルから秋葉原を小型船で結ぶルート開発が進んでいる。これは、国土交通省が中心になって実証実験をしているのだ。地域を巻き込んだ進め方が功を奏し、着々と調査が進んでいる。

神田川を水道橋から万世橋に下るコースで、水面からの景観を楽しむ
神田川を水道橋から万世橋に下るコースで、水面からの景観を楽しむ

 

ポイント:

・水上バスへの挑戦は、実証実験だからスタートできた
・水辺を有効活用して観光ルートを開発し、訪日観光客にも楽しんでもらうことを目指す

 

■2015年から小型船を利用した実証実験が始まった

国土交通省が中心となって、訪日外国人や地方からの観光客に東京都心の眺めを小型船から楽しんでもらおうという取り組みが進んでいる。羽田空港と秋葉原の水辺を結ぶ定期船の運航を目指しているのだ。

この取り組みは、実証実験という形で、2015年から3回開催され、2016年の秋に最後となる4回目が開催された。そして今後、商品化について最終的判断をすることになっているのだ。実験に参加した船会社が、正式就航を目指している。

第1回目は、2015年9月19日から9月26日の間に計7日間行われ、約1,500人が参加した。
ルートは、羽田空港の国際線ターミナル近くの桟橋を出発後、東京湾岸を北上して隅田川に入り、秋葉原の万世橋の船着場に到達するものだ。

各所で水面に近い橋の下をくぐるため、船は平型の40人乗りとした。約20キロの航路を、上陸休憩を挟みながら、自転車程度のスピードで約2時間半かけて進む。
途中でレインボーブリッジや東京スカイツリー等を見ることができ、普段とは違う海からの風景は新鮮だ。また、ガイドも同乗し、要所ごとに解説を加えた。

船着き場で乗船記念の写真撮影をする参加者の家族
船着き場で乗船記念の写真撮影をする参加者の家族

続いて第2回目は、2016年2月に神田川ミニツアーのみが7日間開催され、約320人が参加。そして第3回目は同年5月から6月にかけて行われ、羽田空港のコースが復活し、さらに横浜のコースを新しく加え約2180人が参加。第4回目は、同年10月~12月に第3回のコースに工場夜景コースを加えた形で開催され、約500人が参加した。

■神田明神の神事が、秋葉原と羽田空港を結ぶきっかけに?

国土交通省公共事業企画調整課の武藤徹課長補佐によると、今回の実証実験で重要なポイントは、地元の行政が前向きで、最初に同意できたからこそ実現できたという。

きっかけは、神田明神のお祭りで、2015年に12年ぶりに神輿の船渡御が執り行われことだった。
そのとき使用された船着場のある万世橋は国交省が管理等を管轄する国道になっている。
そして、この時に、この船着場を活用できないだろうかと、この施設の管理者(国交省、千代田区、町内会の共同運営)で話になったのだ。

この船着場は、普段は使用されず、柵には鍵がかかっていて、近づくことができない。そのため、ここに船着場があるということさえ、多くの人には知られていない。災害時のことを考えるとある程度の利用は大事だと考えたことから、武藤氏が地元の千代田区にここの有効活用について話をもちかけた。ここが船の発着場所になれば、当然、住民や働いている人からの認知度が上がり、さらに鉄道、バスが止まっても第3の交通機関として有益な選択肢になり得るという。

万世橋の船着き場は、通常は柵があって入ることができない
万世橋の船着き場は、通常は柵があって入ることができない

これを受けて、千代田区は船着場の活用を前向きに検討し、やがて地域の賑わいを目的とした水辺の活性化というコンセプトが固まった。
その中で、小型ボートで羽田空港と万世橋をつなぐというアイディアに発展し、国際線で来日した外国人観光客が、秋葉原に乗り付けたら楽しいだろうという話が出てきたのだ。

■様々な関係者との協議を重ね、「実証実験」という形での実施へ

まずは何らかの利益を生み出すマーケットとしての可能性を調べることができないものかと考え、思いついたのが「実証実験」という企画の進め方だ。

実験の目的は2つだ。
1つ目は、移動する交通手段としての可能性を探ることだ。渡し舟に乗るような感覚で、バス代わりになるかの実験だ。
2つ目は、インバウンドなど、観光客に楽しんでもらおうというものだ。まさに特別感の演出が可能か、また利用者の満足度を測る実験だ。

武藤氏は、水上を管轄する国土交通省の海事局に足を運び、相談した。地元の賑わいを目的としていることを伝えると、海事局は実証実験への協力と全国的な旅客船での観光サービス充実に向けて前向きに検討を進め、2年間の特例措置を決定した。内容は、自治体等が観光振興のために旅客船で実証実験を行う場合に、特例的に規制緩和を行うというものだ。
この特例制度を踏まえながら、実証実験である以上、回数と期間を区切った。そして、2015年から2016年に4回実施して、定期運行をするかどうかの最終判断をすることが決まった。

第4回目から新たに加わった工場夜景コースの船が出発する
第4回目から新たに加わった工場夜景コースの船が出発する

また、関係者と事前にしっかり話をしていたことが今回の実証実験をスタートできた理由だ、と武藤氏は言う。
実際に停泊する天王洲などの船着場を管轄する公的な部局、羽田空港、さらには長きにわたって舟運を守り営業している屋形船や釣り船等への配慮も怠らなかったのだ。

■実証実験を通して見えてきた課題と可能性

もともとの資産を活用しただけだが、マーケットの拡大の余地があると手ごたえを感じている。
また、外国人観光客向けには、空港から手ぶら観光を組み合わせることが課題だと分かってきた。つまり、大きなスーツケースを一緒に載せる余裕が小舟にはないのだ。

これまでの実験で、外国人の乗船は数人しか確認できていないが、次回は羽田空港まで行きたい、料金(コースによって異なり、秋葉原~羽田空港は3500円)がもう少し安ければというコメントがあがっていた。
そもそも、このコースが外国人旅行者へあまり知られていないのが”課題”だと武藤氏は付け加えた。

最終的にビジネスとして定着するかは、まだ決定してないが、早ければ2017年2月には方向性を見出すことになるかもしれない。決定はあくまでも民間の船会社がするものであり、国交省はその判断材料につながる取り組みをサポートする。地元の意向を踏まえ、今回の実証実験に参加した関係者同士の話し合いが続く。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/