岡山県の山間部にある真庭市で、毎週多くの視察ツアーが催行されている。かつては林業で栄えたエリアがバイオマス事業に踏み出し、日本だけではなく海外からも注目されているのだ。キラーコンテンツをバイオマスツアーの一つに絞った結果、知名度があがり、市内の観光地にも波及効果が高まっている。

バイオマス発電所の外観
バイオマス発電所の外観

ポイント:

・森林が豊富な地域資源を生かすことに注力し、バイオマス事業がスタート
・視察ツアーの成功による波及効果で市内の観光地も盛り上がる

■真庭市はなぜバイオマスの先進エリアになったのか?

真庭市とは、岡山県の山間部に位置し、現在では、豊富な木材資源を背景に「バイオマス(※)産業都市」として国内でも先端を走る。多くの視察の受け入れをして、海外からの訪問も珍しくないのだ。
(※)バイオマス(biomass)は、「バイオ(bio=生物、生物資源)」と「マス(mass=量)」を組み合わせた言葉。一般的には、植物などの生物から生まれた再生できる資源のことを指す。

バイオマスが盛んになったきっかけは、地域の主要産業への危機感からだという。1980年代以降、国内の木材価格の下落が止まらず、地元の林業や製材業を取り巻く環境が厳しくなっていた。

真庭市には100年育ったひのきが林立している
真庭市には100年育ったひのきが林立している

そこで1993年、「21世紀の真庭塾」という、真庭の未来を共に考える組織が、当時20歳代後半~40代の地元の若手経営者や各方面のリーダー達によって結成された。

その中で、現状を打開すべく議論が繰り返され、地域資源の新しい活用方法として、バイオマスが持ち上がったのだ。
そして、さっそくバイオマス事業を立ち上げた製材会社がいくつかあった。
その活動はその後のバイオマスタウンの推進力となっていくことになる。

■バイオマスに特化した視察ツアーを造成して、海外からもやって来る観光地に!

2005年に市町村合併により新しい真庭市が誕生した際に、全国的な知名度がなかったので、情報発信をする必要があった。市役所は、そのための強いコンテンツを考えていたところ、既に活発になっていたバイオマス事業に絞ることとした。ちょうど2005年は、地球温暖化が話題となり、バイオマスという言葉が一般に浸透し始めた頃だった。
このように、「バイオマスタウンの真庭市」として特化したところ、市外からの視察問い合わせが急増したのだ。

そこで、2006年度からふるさと財団の「地域再生マネージャー事業」により派遣された専門家とともに、「バイオマスツアー真庭」作りを進めた。そして、中山間らしい「顔のみえる産業観光」をコンセプトに、2006年12月に視察ツアーがスタートしたのだ。このツアーでは、バイオマスのガイダンス、「ペレット」と呼ばれる木質性資源の製造工場見学、バイオマスを使った温水プールの見学等をする。

ペレットにして発電所で活用する
ペレットにして発電所で活用する

当初は、ツアーは月に1回ぐらいの申し込みがあれば上出来という考えだったが、蓋を開けると全国から週に2、3回のツアーが催行される人気ぶりとなった。

2007年10月には、バイオマスエネルギー施設をツアー化していること等が評価され、経済産業省から、次世代エネルギーパークに認定された。
それにより、「真庭市地産エネルギーパーク」としての知名度が上がり、ツアー客も更に増加した。

その後、2009年からは真庭観光連盟が運営母体となり、行政機関を相談役としながら、見学先と連携し、ツアー運営を行うようになった。
さらに2011年の東日本大震災以降は、自然エネルギーへの関心が高まり、参加者が増加している。
個人参加の要望も増え、月1回の個人参加者専用日も設定している。現在は、個人・団体ともに国内外から多くの方が視察に来られるほどのツアーへと進化している。

バイオマスの集積基地で木材資源を整理する
バイオマスの集積基地で木材資源を整理する

結果として、バイオマスツアーが評判となり、真庭市の知名度があがり、蒜山高原の温泉等の観光地への波及効果にもつながった。それまでは、関西圏からの集客が多かったが、全国、さらに海外からも人がやってくるようになった。キラーコンテンツを一つに絞ったことが成功の要因だろう。

■日本で唯一のバイオマスツアーだから海外からの視察に選ばれる

海外からの視察コースでは、市内の温泉等で1泊するケースが多い。また、工場見学だけではなく、古民家が並ぶ勝山保存地区にも関心が高いそうだ。観光要素の強いエキゾチックな雰囲気はもちろん、江戸時代から続く木材の町だった歴史的背景を知ることができ、理解が深まるからだろう。

真庭市内の勝山にある街並み保存地区
真庭市内の勝山にある街並み保存地区

海外からはJICA(独立行政法人国際協力機構)を通してやってくる場合が多く、基本的にはその団体で通訳を手配しているので、語学の心配はいらない。
視察は、特にアジアからのニーズが高いようだ。ここ最近の海外視察の受け入れ数は、2011年が23人、2012年が90人、2013年が80人、2014年が31人、2015年は151人でそのうち中国から100人の団体を受け入れている。やはり東日本大震災以降、海外でも関心が高まってきたと、担当者は話す。

参加者で多いのは、政府関係者、自治体関係者、エネルギーに関する技術者、自然エネルギーを学ぶ大学生といった人たちだ。

また、観光連盟には英語を話せるスタッフもいて、その他、民間の視察対応も担っている。ここ最近は個人からのメールでの問い合わせが増えてきたという。そこで、2016年9月に英語のwebページを開設したのだ。これまで多かった質問に配慮して、視察コースの内容にも言及している。
今後は海外からの個人での参加が増えるのではないかと、観光連盟では期待を寄せている。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/